「敷居が高い/低い」という表現で、「高級店に入りづらい」などの場合に「敷居が高い」を使う人は7割超と、浸透した表現であることが分かりました。逆の意味で「敷居が低い」も使う人は1割強で、一般的な表現とは言い難いようです。

「敷居が高い/低い」という表現について伺いました。

「低い」は少数派、「高い」は浸透

「高級店で敷居が高く入りづらい」「庶民的な店で敷居が低く気軽に入れる」などといいますか?
「敷居が高い/低い」両方いう 13.5%
「敷居が高い」はいうが「低い」はいわない 60.3%
「敷居が高い/低い」両方いわない 26.1%

 

「高級店に入りづらい」などの場合に「敷居が高い」を使う人は7割超で、浸透した表現であることが分かりました。逆の意味で「敷居が低い」も使う人は1割強で、一般的な表現とは言い難いようです。

”本来の用法”だけでは言葉そのものが消えるかも…

三省堂国語辞典7版では「敷居が高い」について、本来の意味とされる「①義理を欠いたりして、その人の家に行きにくい」に加え、「②近寄りにくい」「③気軽に体験できない」の意味を認め、「②はおそくとも戦後、③は1980年代にはあった言い方」と説明しています。岩佐義樹「毎日新聞・校閲グループのミスがなくなるすごい文章術」(ポプラ社)は寺田寅彦の1935年の随筆を引いて、本来ではないとされる用法には80年以上の歴史があると指摘しています。

毎日新聞の記事を検索しても「画廊は敷居が高い」「警察への相談は敷居が高い」といった使い方ばかり。「不義理」の文脈はごく少数です。「本来ではない用法」のおかげで現在まで「敷居が高い」が生き残ってきたともいえます。「本来の用法」にこだわるならば、「敷居が高い」を目にすることはほぼ無くなるでしょう。「不義理に限らず、いろいろな理由によって気後れして近付きにくいときに使う--と広く捉えてもいいのではないでしょうか」(同書)というのが現実的だと思われます。

一方で、今回のアンケートでは4分の1と決して無視できない割合の人が「本来ではない使い方」をしないと回答しました。新聞・テレビの用語懇談会では、「不義理」以外の場面で「敷居が高い」を使うと読者・視聴者から苦情が来ると話題になったこともあります。ですから、記者の書く文章を「ハードルが高い」「気軽に入れない」などとするのもよいでしょう。しかし誰かの発言の引用などをわざわざ別の表現にする必要はなかろうと思います。

バリアフリーで消える「敷居」

ところで敷居とは「門の内と外との仕切りとして敷く横木。また、部屋の境に敷く、引き戸・障子・ふすまなどを開けたてするための溝やレールのついた横木」(大辞泉2版)。これに対して上の方についている横木が「鴨居(かもい)」ですね。

by __U___

 

祖父母の実家で廊下から畳敷きの部屋に入るには、確かに敷居の段差を上らねばなりませんでした。「古式の敷居は畳と同じ厚みで、床板にそのまま乗っていました」(中山章「図説日本の住まい」建築資料研究社)とのことですから、これが「入りにくい」の例えになったのは理解しやすいでしょう。

しかし敷居は「現在は薄くつくります」(同書)。出題者が現在住むマンションには門もなく、屋内の引き戸の下のレールは金属製で、廊下との段差はほとんどありません。住宅会社のサイトによると、「お年寄りや赤ちゃんがつまずいて転んでしまうことが懸念されるようになり、バリアフリー工事を行うことが増えてきました。例えば、段差を無くすために小さなスロープを設置したり、引き戸を上から吊るし、敷居それ自体を無くしてしまうということも可能です」。

生活の変化で表現はどうなる

こうした傾向はさらに進むでしょう。内と外を分ける敷居の存在感は小さくなり、元々どんなものだったかも意識されなくなっていく。その意味では「敷居が低い」は良いことであり、バリアフリー社会に対応した新しい表現……とこじつけることもできるかもしれません。しかし今回のアンケート結果を見ても多くの人に違和感を持たせることは確実で、避けるのが無難です。

余談ですが東京のマンションは天井が低く、自宅に来てくれた背の高い知人は窮屈そうに部屋に入ってきました。ならば足元の段差が消えた後の新たな表現は、気軽に入れる場合「鴨居が高い」、近寄りがたい場合「鴨居が低い」!? これはさすがにないでしょうか。

(2019年10月25日)



質問に際して

慣用句「敷居が高い」について、9月に出た大辞林4版では「不義理・不面目なことなどがあって、その人の家に行きにくい」ことだとした上で、「近年『高級さ・上品さにひるんで行きにくい』の意で用いることがあるが本来は誤り」との注が加わりました。

この「高級さ・上品さにひるんで~」という使い方についてご存じの方も多いと思います。2008年度の文化庁「国語に関する世論調査」では、30代以下の7割以上が「本来の意味ではない」とされるこちらの意味を選びました。

大辞林のように「誤り」とする辞書は多く、新聞・通信社の用語集でも「俗用」として避けるよう促すものがあります。しかし広辞苑7版など認める辞書もあります

一方「敷居が低い」はどうか。「高い」を「低い」にして意味を反対にする自然な派生ではあるでしょう。しかし慣用としてはなじまず、辞書では三省堂国語辞典7版に「敷居が高い」の反対語として「←→敷居が低い」とあるくらい。議論の分かれる「敷居が高い」を許容する人でも、「敷居が低い」はちょっと……という人は多いのではないでしょうか。

(2019年10月07日)

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