「しないべきだ」という表現は「問題あり」が4分の3を占めました。「しないべきだ」は誤りと明記している辞書もあり、置き換えられるようなら「すべきでない」にし、そうでなければ別の表現にすることをお勧めします。

時として現れる「しないべきだ」について伺いました。

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「問題あり」が4分の3を占める

「~すべきだ」の反対形としての「しないべきだ」。どう感じますか?
問題ない 3.8%
違和感はあるが、許容できる 19.9%
問題あり。「すべきでない」などとしたい 76.3%

 

4分の3は「問題あり」を選択し、「しないべきだ」は許容できないと回答しました。大多数は認めないだろうと予想していたので結果に意外さはありませんが、2割程度の人が違和感を持ちつつも「許容できる」としたのは興味深いと思います。

文語の響きを残す「べし」「べきだ」

「べし」は文語の助動詞「べし」が口語においても生き残ったものです。「したがって、文章語的性格を帯びており、口頭語では『欠勤届を出しておくべきだよ』のように、連体形『べき』がもっぱら用いられ、他の活用形は『池の魚を釣るべからず』『なるべくしてなった今日の栄光』『直ちに帰るべし』のように硬い表現の文中でか、慣用化された決まり文句としての使用が普通である」(森田良行「助詞・助動詞の辞典」東京堂出版)

ゆえに助動詞「べし」を用いた表現では、口語としてこなれた形を作るのは今ひとつ難しいということになります。本題からはそれますが、「すべきだ」と「するべきだ」でどちらの形を用いるかという件についても「現在も、『…するべきだ』より『…すべき』が好まれる傾向が見られます」(北原保雄編著「問題な日本語 その4」大修館書店)というように、文語の形の「すべきだ」が多く使われます。

「~ないべきだ」と「~べからず」の差

さて、「しないのが適当だ」「しないのが当然だ」という場合の「しない+べし(べきだ)」という形についてですが、文語をベースにして考えればこれは「せざるべし」になるはず。ただし、上述のように現代口語では「……べきだ」という形になるのが一般的ですので「せざるべきだ」となるところでしょう。しかし、口語文でこの形を見たことがある人はいないかもしれません。

回答から見られる解説でも触れましたが、「すべし(するべきだ)」の否定形は「すべからず(するべきでない)」という形も考えられます。ただしこちらは「してはならない」という禁止の形を取る表現なので、「しない+べし(べきだ)」と同じ意味を持つかというと疑義が生じる場面もあります。

辞書編集者の飯間浩明さんはツイッター(@IIMA_Hiroaki)で、漫画作品から「眠れないべき」という言葉を抜き出し、「『眠れるようであってはならぬ』の意ですが、これは『眠れるべきでない』に言い換えられませんね」とツイートしています。これは文語っぽくすると、「眠れざるべし」であっても「眠れるべからず」ではない、ということになるでしょうか。「べからず」はどうしても禁止のニュアンスが付きまとうのですが、この「眠れないべき」は「眠れないはず」「眠れないのが当然だ」という感じで、禁止を意味しているわけではありません。ちょっと風変わりではありますが、「すべきでない」と「しないべきだ」の間にみられる、力の入り加減の差を伝える興味深い例だと思います。

使用をお勧めはできず

とはいえ、国語辞典には「否定形は『…べきで(は)ない』が正しく、『しないべき』は誤り。『×嫌がることはしないべきだ→○嫌がることはすべきではない[するべきではない]』」(明鏡国語辞典2版)と明記しているものもあります。ニュアンスの違いがあるとしても、「しないべきだ」をすんなり認めるという話にはなりそうもありません。

文において「形がおかしい」というのはやはり違和感を持たれやすいもので、動詞の終止形ないし「ウ」音で終わる形につながる「べし(べきだ)」が、形容詞型の終止形「ない」につながるというのは抵抗感を感じる人が多いのも当然だと思います。アンケートでも多くの人が「問題あり」を選んだことでもあり、「しないべきだ」を使うのは、少なくとも現時点では思いとどまるのが無難だろうと考えます。

今回のアンケートのきっかけになった文章は、「AならばBすべきだと思うし、CならばDはしないべきだと思う」というものでした。この最後を「すべきでないと思う」としてもさほどの問題はないでしょうし、多くの場合は「すべきでない」に置き換えが可能であることを踏まえて、どうしても違和感が残る場合にはあえて文語を使用するか、あるいは表現を全体的に変更するという手間を掛けることが必要になりそうです。

(2019年08月27日)



質問に際して

ウェブで読んでいた文章中に「しないべきだと思います」という表現を見つけて、へーっと思いました。当該の文章はウェブのものとはいえ、書き手は既に一般の書籍などにおいても高い評価を受けている人だったからです。

「べきだ」は助動詞「べし」の連体形に「だ」が付いたもの。「べし」は動詞の終止形(「う」音で終わる形)に付くので、「しないべきだ」は本来の形から外れたものと言えます。ウェブでは出版物と違って校閲者や校正者が小うるさいことを言わないので、ポロッと出てしまった表現かもしれません。ただし、即座に誤用とするのもためらわれる面があるのは事実です。

文語「すべし」の反対形には「すべからず」「せざるべし」の二つの形があります。この二つの意味は必ずしも同じとは言えないのですが、口語形では「すべきでない」だけになってしまう。それに対し「せざるべし」の方を口語化しようとしてひねり出された形が「しないべきだ」であると考えられます。文法的にはルール外れですが、この形は案外受け入れられるものでしょうか。

(2019年08月08日)

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