数がある基準を下回る時に使う「切る」と「割る」。今回は、ほぼ真っ二つに回答が分かれ、あまり違いは意識されていないようでした。確かに両者は同じようにも使えますが、微妙にニュアンスが違うところもありそうです。

数がある基準を下回る時の表現について伺いました。

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「切った」「割った」ともに4割強

上半期の交通事故死者が1500人を「下回った」――言い換えるならどちら?
「切った」とする 42.3%
「割った」とする 43.7%
この場合は上のどちらでもよい 14%

 

ほぼ半々に割れました。「切った」「割った」ともに4割強。この回答によれば、全体的な使用実態としては、特に違いは意識されていないと考えられます。

「切る」イコール「割る」なのか

確かに国語辞典では、一定数を下回る場合の「切る」について、「割る」と同じであるという説明をしています。

【切る】

ある基準の数量以下になる。割る

(日本国語大辞典2版)

ある基準の数値以下・以内にする。割る

(大辞泉2版)

数値がある目安・限界よりも小さくなる。割る

(大辞林3版)

(ある数量を)下回る。割る

(広辞苑7版)

この場合の「切る」については、日国と3点の中辞典いずれもが「割る」と同じ意味で使う言葉だとしています。

一方の「割る」はどうでしょうか。

【割る】

数量の変動する事物で、数値がある目安以下になる。切る。底を割る

(日国2版)

一定数に達しないで下回る。ある水準以下になる。

(大辞泉2版)

数量がある基準を保てなくなる。ある基準からはみ出す

(大辞林3版)

ある数量以下になる。基準の数値を下まわる

(広辞苑7版)

こちらは「切る」も同様に使うと言っているのは日国のみ。大辞泉と大辞林の記述には、「切る」との微妙なニュアンスの違いも感じられます。

「切る」「割る」に含まれる「気持ち」

森田良行さんの「基礎日本語辞典」(角川書店)は「割る」の項目中で「無意志的な『割る』」として、数値が基準値を下回る場合の「割る」と「切る」の違いについて説明しています。長くなりますが引用します。

(この場合の)「割る」は「切る」と似た意味を表す。

「百メートル競走で十秒を切る」「原価を切る/原価を割る」

「切る」には、基準値を越えて多かったものが次第に低まり、基準値に近づいて、ついに基準値に達し、それを越えて基準以下となる気持ちがある。

一方、「割る」は「切る」と同様の場合もあるが、また、最初少なかったものが次第に基準値に近づいていったが、基準値に達せずに終わったという意識の場合もある。したがって、「割る」には、“必要なのに、それに満たない”というマイナス評価の気持ちが伴う。プラス評価「百メートル、ついに十秒を切る!」は「割る」に換えることはできない。「定員を割る」「原価を割る」「仕入れ価格を割る」のような場合に限られる。「切る」にはこのような気持ちはない。

「気持ち」という言葉でニュアンスを説明しているのを面白く感じます。「切る」は数量がだんだん下がっていって、ついに基準値を下回る場合に使うというのが一点。「割る」はプラス評価される事態には使えない、というのがもう一点です。

同じようにも使うが、同じではない

「定員を割る」というのは、入試の志願者や入学者などが定員に満たない時に使いますが、確かに基準値を超えることなく、届かない場合にも使います。その際には「定員を切る」ではなく「定員を割る」と言うでしょう。大辞泉も「一定数に達しないで下回る」という語釈を載せていましたが、なるほどと思います。

もう一点の「 “必要なのに、それに満たない”というマイナス評価の気持ち」は、大辞林の「数量がある基準を保てなくなる」という説明と軌を一にするものです。「株価が2万円を割った」というなら、「2万円を保つべきで、下回ってほしくない」という気持ちがにじみます。

今回の質問では交通事故の死者の数を例として取り上げました。あまり良い例ではなかったかもしれませんが、減ってほしい数字として分かりやすいものとご了解ください。この場合には、「割る」にともなう「必要なのに~」というニュアンスは邪魔で、単に数値が下がっていって基準値を下回った、との意味を伝える「切る」の方がふさわしいと考えます。

アンケートの結果はほぼ真っ二つだったので、使用実態はここまでの説明とは必ずしも一致していないと思うのですが……もし「切る」「割る」でどちらを使うか迷うような場面がありましたら、ここで書いたようなことを参考にしていただければと思います。

(2019年08月20日)

質問に際して

「切る」と「割る」は、数量について使う場合は似た意味で使われることがあります。国語辞典を見ると「切る」の項目には「ある基準の数量以下になる。割る」(日本国語大辞典2版)とあり、「割る」の方は「数量の変動する事物で、数値がある目安以下になる。切る。底を割る」と説明されますから、こうした使い方では互いに通じ合う言葉だと言えます。

ただし、使い方の傾向というものはあるようです。例えば日経平均株価が2万円を下回ったなら「2万円の大台を割った」「2万円割れ」とすることが多いようです。一方で、陸上100メートル走でタイムが10秒を下回ったなら「10秒を切った」「10秒切り」と言い、「10秒割れ」という書き方は見かけません。

ともに「ある基準」「ある目安」を下回ることを意味しますが、どちらかというと「割る」については、本来ならそれより下がってほしくない基準を下回ってしまう、良くない時に使われているようです。「切る」の方は辞書に「『100メートル競走で10秒を-・る』『上昇率が10パーセントを-・る』」(大辞林2版)という用例が挙げられているように、プラスマイナスどちらの意味でも使えそうです。

してみると事故の死者が減ったという記事で「割る」を使うのは好ましくないと思うのですが、「~人を割った」と書いてくる原稿もあるところを見ると、こうした感じ方は一般的なものとは言えないかもしれません。皆さんはどう感じるでしょうか。

(2019年08月01日)

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