客の通り道に使うのは、大方の辞書が示す「動線」が過半数でしたが、「導線」も3割超と意外に多く、本来の表記と異なっても、変化した漢字が熟語の意味をうまく生かして受け入れられたようです。「超電導/超伝導」の関係を連想しました。

客の通り道について「動線」「導線」どちらを使うか伺いました。

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「導線」も意外に多く3割超す

お店やイベント会場などで客が通るルートをどういいますか?
動線 57.3%
導線 31.4%
上のどちらでもよい 5.1%
「ドウセン」とはいわない 6.1%

 

「ドウセン」とはいわない方は1割に満たず、人の動くラインについてのこの呼称は広まっているようです。表記については「動線」が過半数でしたが、「どちらでもよい」という方を含めれば「導線」も3分の1を占め、決定的な差はつきませんでした。

お客を誘導するのが「導線」

「朝日新聞の用語の手引 改訂新版」(朝日新聞出版、2019年)には、「導線」「動線」の使い分けが新たに盛り込まれました。導線は「電流を通すための金属線」、動線は「建物内や街で人や物が移動する経路」とあります。大方の辞書の記述も同様ですから、「導線」の支持率は意外な高さに思えます。

回答時の解説では、三省堂国語辞典7版が「導線」について「〔デパートで〕客を自然にめぐらせる経路」という説明を載せていることを紹介しましたが、「謎だらけの日本語」(日本経済新聞出版社)に詳しい考察がありました。

同書は日本百貨店協会の「導線を使うのが共通認識。客を目的の商品に向かって導くための線だから」という説明を踏まえ、「導線は客を『導く』ことに重点を置いていることが端的に表せることに加え、動線と発音も一緒だったため、本来の意味とは異なる使われ方であるという意識がないまま業界内で一般化したとしても不思議はありません」といいます。

さらに、1980年代に普及したワープロで変換候補を選ぶ際「本来『動線』とあるべきところに『導線』が取って代わる動きが百貨店業界以外にも広がっていった」という物流業界の担当者の推測を、説得力あるものとして紹介しています。

「超伝導/超電導」と似た経緯たどるか

この「導線/動線」の関係から連想したのが「超電導/超伝導」という言葉。英語のsuperconductivityの訳語で、conductivityとは熱や電気の「伝導率」を意味する言葉ですから「超伝導」とすべきもののはず。しかしこの現象を技術的に活用する場面では、電気抵抗がゼロになることに注目して「超電導」と書かれます(毎日新聞の表記もこちら)。

毎日新聞用語集より

 

実際には基礎物理学では「超伝導」、産業に応用する場面では「超電導」が使われており、どちらも誤りではありません。(詳しくは日本冷凍空調学会のサイトのコラムをご覧ください)

つまり同じ読み方をして本来の表記と異なっていても、変化した漢字が熟語の意味をうまく生かしていれば受け入れられるわけです。今回の「導線」はその条件を満たしているため、3割を超える方から支持されたとも考えられます。「電流を通す線」と混同する恐れがなければ、客を導くという意味での「導線」を否定することもないでしょう。

「導線」表記、五輪で増えるかも

来年の東京五輪・パラリンピックに向けて、「観客のドウセン」という言葉の使用頻度は増えるはず。東京大会の組織委員会による「アクセシビリティ・ガイドライン」では「動線」を使っていますが、「導線」を使っている省庁や自治体の資料もあります。観客を誘導するという意識で「導線」と書かれることが増え、それを目にする機会が増えれば「導線」派も更に拡大するかもしれません。

(2019年08月06日)

質問に際して

住居の家具配置を解説した記事で、「導線の邪魔にならないように……」といった表記を「動線」と直したことがあります。「動線」は「建築や都市における人や物の動きを示す線」(大辞泉2版)であり、「導線」というとやはり「電流を流すための導体となる金属線」(同)が頭に浮かびます。

しかし最近の新聞用語懇談会で、「人の動きを示す線」の意味で「導線」を使う場合があることを知りました。三省堂国語辞典7版では「導線」について、電流を通す線という意味に加え、「〔デパートで〕客を自然にめぐらせる経路。動線」と説明しています。

ネットで検索してみるとデパート以外の用例も。2020年東京五輪について「観客の会場までの導線の確保が重要」といった書き方が見つかりました。あまり一般的な表記ではないと思うのですが、人を「誘導するライン」と考えれば「導線」がおかしいとも言い切れません。

また「動線」という言葉は建築分野で使われる専門用語であり、一般的に浸透していないかもしれません。そもそも「ドウセン」と呼んでいる方がどれくらいいるのか、というのも気になります。

(2019年07月18日)

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