「耳当たり」という言葉は「受け入れにくい」が6割近く。あまり辞書でも見つかりませんが、新しい言葉とも言い切れないようです。おかしいと感じる人が多いものの、必ずしも不適切な用法ではないとする考え方もあります。

「耳当たり」という言葉について伺いました。

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「受け入れにくい」が過半を占める

「耳ざわりがよい」からの言い換えか。「耳当たりがよい」はいかがですか?
使う 7.8%
使わないが、許容できる 34.8%
使わないし、受け入れにくい 57.4%

 

「受け入れにくい」という人が約6割。「耳当たり」にとってはなかなか厳しい結果です。「使う」という人も1割に届かず、アンケートの結果からは使用をお勧めできる表現とは言えないようです。

広辞苑は「耳触り」の説明に使用

広辞苑が7版で「耳触り」という見出し語を取るに当たって、説明を「聞いた感じ。耳当たり」としたのが印象に残っていました。「耳触り」を認めると同時に、「耳当たり」をも同じ意味で認めることになっていたからです。その広辞苑は「耳」の項目中、「耳に当たる」という言い回しについては「聞いて癪(しゃく)にさわる」としており、ここからの類推では「耳当たり」は不快さに結びつきそうであるにもかかわらず、です。

おそらくは、「口当たり」を「飲食物を口に入れた時の感覚。口ざわり」(同)と説明するのと同様に、「当たり」を「ぶつかること」と捉えるのではなく「接触すること。触れること」(大辞泉2版)に近い形で考えているのでしょう。もっとも、大辞泉も載せているのは「口当たり」「手当たり」ぐらいで、音声に関わる表現で具体的な接触のない「耳当たり」は採用していません。

新しい言葉とは言い切れず

回答から見られる解説でも示したように、「耳当たり」を見出し語にとっている辞書は少数派です。確認できた範囲では三省堂国語辞典と現代新国語辞典だけでした。といって、「耳当たり」を新しい言葉と言い切ることも難しいかも。三国は、確認できた範囲では1992年の4版で既に「耳当たり」を見出し語に取っています。毎日新聞の記事データベースではこの30年ほどで31件(東京本社版、地域面除く)と件数は少ないのですが、細々とコンスタントに出現しています。

神戸大学付属図書館の新聞記事文庫では、用例は1件のみですが、読売新聞の1914年の記事(社説)に「而して折角耳当りの良い経済的の文字も……」という例が確認できます。新しい言葉というよりは、何となく分かってしまうためにかえって取り上げられることのない言葉だった、と言うべきかもしれません。

許容される表現という見解も

中村明さんの「日本語 語感の辞典」(岩波書店、2010年)は「耳あたり」を見出し語として採用しています。

みみあたり【耳あたり】耳で聞いた時の感じや印象をさす和語表現。〈―のやわらかな心地よいことば〉▽「人あたり」などと同様、感触を主観的に評価することば。近年、この意味で「耳ざわり」を用いる例が見られる。その用法は俗語的。

この説明で目を引くのは、「耳当たり」を「耳ざわり(耳触り)」に先立つ表現としている点です。「耳障り」の項目では「近年この語の音から、『耳触り』の意と誤解して、『耳触りのいいことば』のように『耳あたり』の意で使う俗な用法が広がっている」とも記述。中村さんは「耳当たり」は以前から使われている表現と考え、「耳触り」に否定的な見解を示しています。

文化庁広報誌「ぶんかる」のウェブサイトに載っている、「言葉のQ&A」の「『耳ざわり』は『障り』か『触り』か」の回では、「聞いたときの感じ」の意味で「耳ざわり」を用いるのは慎重にした方がよいとしつつ、「聞いた感じが良い」という意味では「会話では『耳当たりが良い』など別の表現を用いたりする方が誤解されにくいかもしれません」としています。少なくとも会話では、「耳当たり」は聞きやすく理解できる表現である、という見解を示したものです。

アンケートの結果からすると、おかしいと感じる人も多い表現なので「耳当たり」の使用を積極的にお勧めすることはできそうにありません。ただし、必ずしも不適切な用法ではないとする考え方もあることは心に留めておくのがよく、人が使っても特にとがめる必要はない――そんな言葉と言えるのではないでしょうか。

(2019年07月02日)



質問に際して

「耳ざわりがよい」を許容できるか否かについては、以前このアンケートで伺いました。結果はこちらにある通りで、「耳ざわり=耳障り」だから受け入れられない、という人が7割弱を占めました。毎日新聞用語集では「耳に心地よい、聞き心地のよい」などと言い換えるように案内しています。

一方で、時に「耳当たりがよい」という言い回しを見かけます。「耳当たり」を国語辞典で引いてみたところ、目にしたもので見出し語に挙げていたのは、新語の採用に積極的な「三省堂国語辞典」のみでした。説明は「聞いた時、耳に受ける感じ」(7版)というもの。ただし広辞苑も最新の7版では、「耳当たり」は見出し語になっていないものの、「誤用」ともいわれる「耳触り」の項目で「聞いた感じ。耳当たり」と説明しています。

毎日新聞での「耳当たり」の用例は30年余りで60件ほどですからさほど多いとは言えませんが、近年になって増えたということもなく、思い出したように現れるという感じです。皆さんに受け入れられるようであれば、「耳ざわりがよい」の言い換えとして使えるかも、と伺ってみることにしました。いかがでしょうか。

(2019年06月13日)

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