「恋わずらい」の表記は、悩みと考えて「煩」か、病ととらえて「患」か。ともに約4割で均衡しました。元々は双方とも、心に負担がかかることを意味する文字で、どちらも社会的に支持を得られる表現であるといえます。

「恋わずらい」の表記について伺いました。

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「煩」「患」がほぼ均衡

悩みか病か「恋わずらい」。どう書くのがしっくり来ますか?
恋煩い 40.7%
恋患い 37.6%
恋わずらい 21.8%

 

「煩」を選んだ人がほぼ4割、「患」が4割弱と、漢字の選択についてはほぼ均衡しました。ひらがな書きを選んだ人が2割強。あえて漢字にせずともよいという人も一定数いることがうかがえます。

日本国語大辞典は「煩」のみ収載

日本最大の国語辞典、日本国語大辞典(2版)は、実は「恋煩い」しか載せていません。「恋患い」の用例を採集することもそんなに難しくはなかっただろうと思うのですが……。最初の用例は歌舞伎の「金門五山桐」(1778年)から。「ほんに、瀬川采女(うねめ)さまなりゃ、わたしらでも恋煩らひをするわいなア」というものです。

ただ一方で「恋の病」という言葉があるように、恋愛を病気と捉える表現も古くから行われていました。日国2版は「金葉和歌集」(1124~27年)から「かくばかり恋の病は重けれど目にかけさげてあはぬ君かな」という小大進(こだいしん)の歌を引いています。

少しくだけて「ほれた病」も「御医者様」の項目に。「お医者さまでも神さまでも惚(ほ)れた病は治らせぬ[治りゃせぬ]」(「譬喩尽」1786年)という言い回しですが、「譬喩尽(たとえづくし)」はことわざ集ですから、もっと前から使われていたはず。時代は明治になりますが樋口一葉「にごりえ」にも「お医者様でも草津の湯でも」というフレーズが出てくるほどですし、恋を病気と見なす言い回しは相当広く用いられていたと考えられます。

「わずらい」でも「恋わずらい」は特殊な例

漢和辞典編集者、円満字二郎さんの「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社、2016年)によると、漢字の意味は「煩」が「『煩雑』『煩多』のように使われる漢字で、『手間がかかる』という意味。(中略)“手間がかかる”ところから、広く“心が乱される”という意味にもなる」。「患」は「部首『心(こころ)』にも現れているように、本来は“心配する”という意味。(中略)転じて、特に自分の健康について“心配する”ところから、“病気にかかる”という意味にもなる」。元々は双方とも、心に負担がかかることを意味する文字です。

同書はこの2文字を使う「わずらう」について、「大きく分けると、“心が乱される“ことと”病気になる“ことという二つの意味がある」と言い、前者が「煩」、後者が「患」で書き表されるとしています。ただし「恋わずらい」については「特殊な例」とも述べており「≪煩≫を書けばふつうに“恋に心が乱される”という意味だが、≪患≫を使って、“まるで病気になったみたいに”という比喩的な表現にすることもできる」と説明します。元々は似た意味を持つのだから、どちらも使えるというのも自然なことかもしれません。

どの表記を使ってもOK

しかし、こうなると「どっちでもいいのでは?」という声が強くなってきそうです。ツイッターへのコメントでも「病でもあり悩みでもあり」と、あえて漢字にする必要はないのではないかという意見がありました。

日本新聞協会の用語懇談会では、協会で出している「新聞用語集」の改訂に備えた作業の一環で、同訓異字の使い分けについて議論しました。「恋わずらい」については現在は「恋患い」を載せていますが、「煩い」を使う会社も数社あり。結局、ニュース記事で出てくる言葉でもないということで、次期用語集からは「恋わずらい」という言葉自体が外されることになりました。

アンケートの結果は均衡、言葉の意味からしても両方いけそう、メディアは決定を留保となると、当方も判断材料に困ります。とりあえず用語集には「恋患い」が残りましたが、その他の「恋煩い」「恋わずらい」も、社会的に支持を得られる問題のない表現である、ということでまとめるしかなさそうです。

(2019年06月14日)

質問に際して

「わずらう」には二つの漢字表記「煩う」「患う」がありますが、毎日新聞用語集には「(恋煩い)→恋患い」と「患」に統一する方針が載せられています。今度の用語集改訂にあたってどうするか議論になったのですが、結局2019年版もそのままになりました。

文化審議会国語分科会の報告「『異字同訓』の漢字の使い分け例」(2014年)では、「煩う」を「迷い悩む」、「患う」を「病気になる」としています。前者の用例として「卒業後の進路のことで思い煩う」、後者の例に「大病を患う」といったものが挙げられていますが、「恋わずらい」は出ていません。

「お医者さまでも草津の湯でも……」というくらいだから「病」と考えて「患う」か、と思う一方、恋愛ゆえに主人公が死に至ったゲーテの「若きウェルテルの悩み」は「悩み」だし、「煩う」の方がよいのかも、とも思います。

国語辞典では「恋煩い」だけを載せているもの、「恋煩い(恋患い)」のように「患」も使われると示しているものがありますが、「恋患い」だけを載せているものは見当たらず。新聞・通信各社の用語集は「煩」と「患」で割れています。はっきり白黒付くという話ではなさそうですが、アンケートの結果が気になるところです。

(2019年05月27日)

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