「かたくりこ」の書き方では漢字表記の「片栗粉」が8割超と、ひらがなやカタカナを圧倒しました。新聞・通信各社の用語集では「片栗」を認めているのが4社、認めていないのが3社。語源からは「片栗」とする理由は見当たらないようです。

「かたくりこ」の書き方について伺いました。

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「片栗粉」が8割超す

料理で使う「かたくり粉」。どう書きますか?
片栗粉 81.8%
かたくり粉 13.7%
カタクリ粉 4.4%

 

漢字表記の「片栗粉」が8割超と、ひらがなやカタカナを圧倒しました。毎日新聞では今般の用語集の改訂でも「片栗粉」は採用しませんでしたが、一般には漢字表記が違和感なく受け入れられているようです。

語源から「片栗」表記は導かれず

カタクリの花は万葉集にも出てきます。

「物部(もののふ)の八十少女(やそおとめ)らが汲(く)みまがふ寺井の上の堅香子の花」(大意:多くの少女たちが入り乱れて水を汲んでいる。寺の井のほとりに咲く堅香子の花のかれんさよ)

「日本古典文学大系7」(岩波書店、1962年)から

この「堅香子」がカタクリのこと。でもそのまま「かたくり」と読むわけではなく、「かたかご」というルビが振られています。

カタクリ

 

「和名は、古名の『かたかご』が『かたこゆり』になり、さらに転じて『かたくり』になったという。片栗とするのはあて字に過ぎない」(「日本の野生植物」平凡社、1982年)と言われます。「ゆり」が付いたのは花がユリに似ているため。「かたこゆり」が「かたくり」になるのは分かるように思いますが、では「かたかご」とは。

一説に「この花をかたむいたかごにみたてたものと思われます」(「牧野富太郎植物記3」あかね書房、1974年)といいます。「傾いたかご」だから「かたかご」。また、江戸時代終わりごろの百科事典「古今要覧稿」によると「名義詳らかならず。強いていわば堅は片字の意にて片葉の略。香子は鹿子にして斑文あるをいう」(巻404。新かなに改め、送り仮名と句点を補った)とのこと。「片鹿子」だから「かたかご」と。いずれにせよ語源から「片栗」とする理由は見当たらないようです。

新聞・通信社も漢字が多数派に

ただし、「すてき」の表記について伺った際にも書きましたが、語源から離れた表記や当て字であっても、広く浸透したものについては新聞も使用を認めることがあります。新聞・通信各社の用語集を見てみると、「片栗」を認めているのが4社、認めていないのが毎日新聞を含めて3社でした。数から言えば「片栗」が既に優勢です。今回の改訂では毎日新聞は漢字表記を見送りましたが、アンケートの結果を見ても、今後もどうするか検討を続ける必要がありそうです。

ところで、回答から見られる解説でも書きましたが、現在のかたくり粉はカタクリの鱗茎(りんけい。根茎と書いていましたが、正確を期すれば「鱗茎」が良いようです)ではなく、ジャガイモでんぷんが原料です。いっそのこと「ジャガイモ粉」にしてしまえば表記で悩む必要はなくなる?というのは暴論ですが、原料を置き換えても「かたくり粉」の名称を使い続けたのは面白いことだと思います。「ジャガイモ粉」では売れそうにないと考えられてのことでしょうか。

(2019年06月04日)



質問に際して

5月から運用を始めた2019年版の毎日新聞用語集では、新たに漢字「栗」を使用してもよいことにしました(音訓は「くり」のみ)。常用漢字表に入っていない表外字ですが、一般的に認知度が高く、使用することで文章が読みやすくなる場合も多いと判断したためです。用語集は「いが栗頭、栗ご飯、栗拾い」という用例を挙げていますが、校閲センターでも意見が割れたのは「かたくり粉」をどうするかでした。従来はひらがなの「かたくり粉」だったのですが、「栗」が使えるなら植物のカタクリ(動植物の名は主にカタカナで表記しています)も、その根茎に由来するかたくり粉(現在はジャガイモでんぷんがほとんどのようですが)も「片栗」と書いてよさそうに思えます。しかしカタクリの名は、傾いたカゴのような花の形状に由来する「カタコ」が変化したものといいます。すると「片栗」という表記は名称と直接のつながりはなく、あえて漢字で書く必要はないということになります。結局、今回の改訂では「かたくり粉」のままとなったのですが、世間の表記の大勢が漢字であるなら改めて検討が必要になるでしょう。皆さんの回答が気になるところです。

(2019年05月16日)

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