「逆手にとる」の読みは「ぎゃくて」が早くから辞書にあったのですが、今回は「さかて」が9割超。NHKは2014年から優先する読み方を「ぎゃくて」から「さかて」に変更しています。特段の理由がなければ「さかて」が無難のようです。

「逆手」に取ってやり返す、という場合の読み方を伺いました。

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「さかて」が9割超す

相手の手口を「逆手」に取ってやり返した――どう読みますか?
ぎゃくて 4%
さかて 92.2%
どちらでもよい 3.8%

 

まさかこれほどとは。「さかて」が9割以上を占め、「ぎゃくて」と読む人がもはや希少種であることを示しました。「さかて」が間違いというわけではありませんから何も問題はないのですが、早くから辞書に載っていた「ぎゃくて」がここまで減っているとは思いもよりませんでした。

相手をひねり上げるのは「ぎゃくて」

改めて「ぎゃくて」「さかて」の基本的な意味を押さえます。広辞苑7版に従うと「ぎゃくて」は「①柔道で、相手の関節を不自然に曲げ痛めること。ぎゃく。②物を握るときなど、手を通常とは逆の向きにすること。←→順手。③相手の攻撃の手段を逆用して、自分の攻め手とすること。(中略)さかて。『―に取る』(後略)」。ただし②については「さかて」の方にも載せている辞書が多く見受けられました。

一方の「さかて」は「①『天の逆手』に同じ。②刀などを逆に持つこと。逆に取ること。(中略)③逆手(ぎゃくて)3に同じ。『相手の言い分を―に取る』」。「天の逆手」とは何かというと「呪術の一つで、事の成就を誓うためや、人を呪う時に打った拍手(かしわで)」のこと。少々おっかないですが、現在では絶えた用法です。

というわけで、はっきり使い分けが意識されているのは、現在では「ぎゃくて」の①と「さかて」の②、腕などをひねり上げるやり方と刀の持ち方、ぐらいでしょう。しかし、この二つの用法を見ると、相手の攻撃を逆用するという意味には「ぎゃくて」の方が合っている気もするのです。

「逆を取る」の読みは「ギャク」

文化庁の「言葉に関する問答集10」(1984年)は「『逆手』は『ギャクて』か『さかて』か」という項目でこの問題について取り上げており、「逆」が単独で「逆(ぎゃく)を取る」と使われることを挙げて以下のように言います。

「逆を取る」というのは、「ギャクテを取る」とも言い、柔道などで相手の関節を無理に反対に曲げようとすることで、広くひゆ的に相手のしかけてきた方法を利用して相手を攻めるような場合にも使われている。この場合、「~をギャクテに取る」というような言い方も行われている。

要するに「逆手に取る」というのは「逆を取る」ということと同じで、その派生形、あるいは同時に行われた言い方と考えると「ぎゃくてに取る」の方が普通であろうということです。辞書に以前から載っていたのが「ぎゃくて」の方であるのも理由あってのことと言えます。

NHKは「さかて」優先に変更

新聞よりも漢字の読み方が問題になる放送局ではどう考えているでしょうか。NHKの「ことばのハンドブック2版」(2005年)を見ると、「逆手」の項目には「(相手の出方を~に取る)①ギャクテ ②サカテ」とあります。今回のアンケートで9割が「さかて」を選んでいるのにNHKは「ぎゃくて」優先か、と思うかもしれません。

実はその後。NHKは方針を変えました。NHK放送文化研究所の「放送研究と調査」13年10月号に変更の内容が書かれており、読み方の順番が「①サカテ ②ギャクテ」に入れ替わったことを伝えています。理由として同研究所は、世論調査の結果で「さかてに取る」が多いこと▽辞書ではどちらの読みも同等に示すものが出ていること▽放送で「ぎゃくてに取る」と読むと「さかて」ではないかと問い合わせを受けるようになったこと――を挙げます。この方針は14年4月から実施されたとのこと。現在では「さかてに取る」を耳にすることが多いのも当然と言えそうです。

違和感避けたければ「さかて」を

今回の結果では9割超が「さかて」を選びました。NHKの11年の世論調査では「さかて」が81%で「ぎゃくて」が18%だったとのこと(前出「放送研究と調査」)。世論の大勢はしばらく前から「さかて」にあるようです。毎日小学生新聞が「さかて」の読み仮名を採用しているのも違和感を持たれないためでしょう。私たちも普段の言葉遣いにおいては、特段の理由があるのでなければ「さかてに取る」とした方が無難と言えそうです。

(2019年04月30日)



質問に際して

答えから書くと、現在では「どちらでもよい」ようです。広辞苑では3版(1983年)までは「ぎゃくてに取る」しか載せていませんでしたが、4版で「さかて」の項目に「『ぎゃくて』に同じ」という説明が加わり、「相手の言い分を―に取る」という用例が挙げられました。

しかし「ぎゃくて」の方が以前から載っていたなら、元々は「ぎゃくて」だったのでは? そうかもしれないのですが、日本国語大辞典(2版)を見ても「逆手(ぎゃくて)に取る」の最初の用例は1964年の安部公房で、さほど古い用法ではなさそうです。刀を反対に持つ「さかて」は宇治拾遺物語(13世紀)の例が挙がっており、「さかて」の方がなじみ深いのは当然という気もします。

新聞はあまり読み方を気にしないメディアなので、仕事上は「さかて」でも「ぎゃくて」でもさほど問題はありません。しかし、新聞でも読み仮名を振っている「毎日小学生新聞」はどうでしょう。データベースで検索すると、2006年以降の過去記事に出てくる「逆手に取る/とる」は12件。読み仮名はすべて「さかて」でした。どうも現在では「さかて」の旗色が良いようです。アンケートの結果も「さかて」が優勢と予想しますが、どうでしょうか。

(2019年04月11日)

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