誤りとも言われる「盛り立てる」が多数で、多くの辞書が見出し語に取っている「守り立てる」を使う人は半分に届きませんでした。三省堂国語辞典は第7版で個別に立項していますが、別語と見なすというのは今後有望な見解だろうと考えます。

「もりたてる」という言葉の表記について伺いました。

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「盛り立てる」が多数派

支援や養育などを意味する「もりたてる」。漢字ならばどう書きますか?
守り立てる 23.6%
盛り立てる 53.3%
意味により使い分ける 23.2%

 

 誤りとも言われる「盛り立てる」が過半数を占め、「使い分ける」も含めると4分の3が「盛り立てる」を使うという結果です。多くの辞書が見出し語に取っている「守り立てる」は「使い分ける」を含めても半分に届きませんでした。

 常用漢字表では「守」に動詞としての「も〈る〉」という訓を認めていないため(「お守り」「子守」など名詞の「も〈り〉」はあるのですが)、新聞などでは「もり立てる」と書きます。「盛」は誤字として使わないようにしているのですが、皆さんの回答から見るに、「盛り立てる」の方が今の用法に即していると考えられているようです。

もとは「まもり育てる」こと

 古い用法は「まもり育てる。大切に養育する。保育する」(日本国語大辞典2版)というものです。日国では「もりたてる」について【守立・盛立】と両様の表記を認めていますが、上記の意味では「守立」を使うとしています。用例は「甲陽軍鑑」(16世紀)から「我等討死にをひては、五歳になる太郎をもりたて給ふべし」というものなど。これは「自分たちが討ち死にしたら子どもを頼む」という場面でしょうか。「守」がふさわしいと考えられます。

 そこから用法が広がり「力を発揮できるように支援する」(広辞苑7版)との意味でも使われます。青空文庫で見られる菊池寛「賤ケ岳合戦」には「若君を守立て天下の政務を執りたいものである」というくだりがあります。織田信長、信忠亡き後の若君(三法師)を守り育てて天下を統一しよう、という羽柴秀吉の口上ですが、ここには上の「養育」と同時に「支援」の意味も読み取れます。現在では野球の記事で「エースの好投をバックも好守でもり立てた」のように使われるのを見かけます。「支援」として理解でき、「守」で違和感のない使い方です。

 しかしさらに、「支援」の意味は個人だけでなく事業などへも向かいます。「衰えたものを再び盛んにする。再興する」(大辞泉2版)という意味になると、「守る」よりは「盛んにする」ことの方が強く意識され、「盛り立てる」という表記が出てくるのも分かるように思えてきます。回答した人の多くも、この意味合いを意識したのではないかと思います。

「三国」は別の言葉扱い

 ここまで「もりたてる」の意味を切り分けてきましたが、新明解国語辞典(7版)はそうした違いを踏まえつつも大胆に語釈を開陳します。「守(り)立てる」の項目は「いろいろ世話をして、人を一人前にしたり応援したり、または組織体を盛んにしたりする。『幼君を―/会社を―』」と、ひとまとめ。表記については「『盛(り)立てる』とも」としています。しかしいきなり「いろいろ」って……。「広い意味で使えるし、表記も好きな方を」と言われているわけです。それでやっていいなら苦労はないよ……というのは校閲記者のぼやきですが、案外それでもよいのでしょうか。

 一方で三省堂国語辞典(7版)は、まとめてしまった新明解とは逆に、「守り立てる」と「盛り立てる」を個別に立項しています。「守り立てる」は「①そばで助けて、うまくいくようにする。②まもり育てる」。「盛り立てる」は「もりあげる。盛んになるように助ける」。どちらも「助ける」という意味合いは含みますが、周囲が個人を助けるような形が「守り立てる」、逆に個人や少数から周囲を活性化するような場合でも使えるのが「盛り立てる」、と言えそうです。

 個別に立項している辞書は、見た限りでは2014年の三国7版だけでした。三国が項目を分けたのもこの版が初めてなのですが、最近の新聞で「人の意欲を明るくもり立てる」「融和ムードのもり立て」などと書かれているのを見るにつけても、もはや「守り立て」からは離れ過ぎた感があります。今回のアンケートでは4分の1ほどの人が「使い分ける」を選びましたが、別語と見なすというのは今後有望な見解だろうと考えます。

(2018年12月04日)

質問に際して

 毎日新聞用語集には「もりたてる」の項目に「(守り立てる、▲盛り立てる)→もり立てる」とあります。▲印は凡例にいわく「誤った表記」。平仮名で書くのは、常用漢字表では「守」に「もり」の訓(「お守り」など)を認めているものの、動詞として使う場合が想定されていないためです。用語集の「誤りやすい慣用語句」の欄には「『堅守で投手をもり立てる』という場合、正しい漢字は『守り』だが平仮名で書く。『ムードを盛り立てる』などは『盛り上げる』の誤用」とあります。

 というわけで「正解は『守り立てる』です!」と言えれば話はもう終わりなのですが、そう簡単でもありません。日本国語大辞典2版(2000~01年)の「もりたてる」の項目は【守立・盛立】の両様の表記を載せています。語釈の中に「③衰えたのをふたたび盛んにする」という意味が挙げられており、この点では「盛」が使われても、おかしいとは言えない印象を受けます。

 日国も旧版(1972~76年)では「守立」しか挙げておらず、「盛り立てる」が目立つようになったのは比較的最近のことかもしれません。しかし、新聞の原稿においても「盛り立てる」と書きたくなるようなケースは少なからずあって困ることも。先日は「少子高齢化に悩む地方を盛り立てる戦略」というくだりを見かけました。用語集からすれば「もり立てる」ですが、ここでは「盛んにする」といった意味で使われており、「守り立てる」よりは「盛り上げる」に近そうです。別の言葉に言い換えましたが、一般の使用実態も「盛り立てる」が有力になっているのではないかと感じています。

 ちなみに日国には「器に料理などを立派に盛りつけをする」という意味の「盛り立てる」も載っていますが、こちらは書き分けが問題にならないので除外してお考えください。

(2018年11月15日)

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