「里帰り」は本来の「一時的に帰る」が65%と有力でした。この「里」は元々「実家」のことで、そのまま落ち着く場所ではなかったのが、もっぱら「古里」として使われるようになり、モノが帰りっぱなしになる「里帰り」を認める辞書も出てきています。

「里帰り」という言葉の使い方について伺いました。

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「一時的」が65% 「定着」許容は3分の1

比喩的に使われることも多い「里帰り」。どんな場合に使いますか?
実家などに一時的に帰る 66%
実家や故郷に帰り、そのまま定着する 9.7%
上のどちらにも使う 24.4%

 

初めに反省の言葉を述べます。今回の質問の意図としては、人間以外の物に使う場合を主眼に置いた問い方にすべきでした。「モノに使うことも多い『里帰り』。どんな場合に使いますか?」としたうえで「製造地など地元に~」などの設問でお答えいただくのが良かったのではないか、というのが出題後に考えたことです。答えを送信したうえで解説を見て、人間の話が出てこないので当惑した人もいるのではないかと思います。

さて、「里帰り」の現在主流の用法は「結婚している人がしばらくの間実家へ帰ること」(明鏡国語辞典2版)で異論はないでしょう。転じて「国外に出ていた品物が一時的に戻ってくる意などにも使う」(同)。「しばらくの間」「一時的」というのが要点で、帰りっぱなしということはないのが本来の用法です。今回のアンケートの結果を見ると、3分の2の人は「一時的」の意味で「里帰り」を使うとしており、本来の用法がまだ有力であることを示しています。一方で「そのまま定着する」という一時的ではない用法を許容する人も3分の1を占めています。

広辞苑は今年1月に出た7版で「里帰り」の項目に新しい語釈を加えました。「故郷や従来あった場所へ戻ること。『修復を終えた文化財の―』」というものです。ここでは「一時的」と限定しておらず、用例もむしろ、修復のためにその場を離れることの方が一時的であって、本来あるべき場所に戻ってくることを「里帰り」と言って差し支えないとしているようです。

回答から見られる解説では、岡山県瀬戸内市の「山鳥毛(やまとりげ)里帰りプロジェクト」の話題に触れました。「山鳥毛」とは上杉謙信の愛刀と伝わる備前刀、国宝の「太刀 無銘一文字」。それを製造元の瀬戸内市で、寄付を集めて買い戻すというのが「里帰りプロジェクト」です。この「里帰り」はもちろん一時的にということではありません。

以前、当ブログの「クニマスの『里帰り』」でも同様のことを書きましたが、里帰りの「里」は元々「生まれ育った家。実家。親元」(明鏡2版)のことで、一時的に帰ることはあっても、そのまま落ち着く場所ではなかったものです。しかし、近年は実家のことを「里」と呼ぶ人もあまりいないのではないかと思います。もっぱら「古里」すなわち出身地に帰ることが「里帰り」とされ、その使い方なら帰って定着することになっても違和感はさほどありません。モノが帰りっぱなしになる「里帰り」が広辞苑で認められたのも、そうした事情を受けてのことと考えられます。

 

モノが地元に戻ることに関しては、「里帰り」ではなく「帰還」「帰郷」などでもよいかと思うのですが、「里帰り」の意味を拡張する方が、語感も柔らかく、イメージもしやすいということでしょうか。ただ、人間に置き換えて考えるとニュアンスのずれに違和感を持つ人もあるはずです。使い方には今後も注意が必要と考えます。

(2018年11月16日)

質問に際して

先日の毎日新聞(一部地域除く)に、岡山県瀬戸内市が名刀「山鳥毛」を購入するため、ふるさと納税を利用して資金を募るという記事が載りました。この企画を同市は「山鳥毛里帰りプロジェクト」と名付けています。岡山で作られた刀に帰ってきてもらおう、買い戻すためのお金は市が集めます、ということのようです。記事によると刀一振りに5億円。高いのか安いのかは分かりませんが、印象に残ったのは「こういう場合も『里帰り』を使うんだなあ」ということです。

校閲記者にとっては厄介な言葉である「里帰り」。「毎日ことば」でも取り上げたことがありますが(クニマスの「里帰り」)、伝統的な使い方はあくまで一時の帰省を指すものでした。毎日新聞用語集では比喩的な用法についても「国外に流出した美術品が展覧会のために一時的に帰ってきたようなときに使われるが、買い戻されて帰ってきた場合など一時的でないことに使うのは適当でない」として、恒久的に戻ってくる場合には使用を控えるよう求めています。

しかし瀬戸内市のケースでも見て取れるように、今では一時的でも恒久的でも、出身地(生産地)に帰ってくるなら「里帰り」を使うのにためらうことはないようです。アンケートの結果もそうした風潮を反映したものになるでしょうか。

(2018年10月29日)

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