校閲の基本の一つ「数字の確認」について、実際にあったケースを例に、手順や考え方を言語化してみました。難しいことは何一つしていない地味な作業ですが、一緒に事実確認を進めるような気持ちで読んでいただければ幸いです。

「世界には1万3000を超す核兵器があるという」。

8月6日、広島原爆の日の朝刊用の原稿にこのような一文がありました。

「世界に1万3000の核兵器(核弾頭)」というのはよく目にする記述ですが、実際のところどうなのか、調べていきます。記事内に出典が書かれていればまずそちらに当たりますが、今回はとくに記載なし。そこで、まずは日本語で「世界 核兵器 数」と検索してみます。先頭に表示されたのは「国際平和拠点ひろしま」のホームページ。広島県のプロジェクトチームが運営するサイトとのことで、ひとまず信頼してよさそうです。

 

世界の核兵器保有数が表にまとめられていて、2021年1月時点の合計は「13080」。内訳には核拡散防止条約(NPT)が核兵器の保有を認める米露英仏中のほか、保有を指摘されているインドや北朝鮮なども含まれており、冒頭の「世界に」「1万3000を超す」核兵器がある、という記述はよさそうに思われました。

しかし引っかかったのは「2021年1月時点」という部分。少し古いデータでは? もしかすると、より新しい調査結果があるのでは?との疑問が浮かび、念のためもう少し調べてみることにしました。

「国際平和拠点ひろしま」のページには、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が発刊するシプリ年鑑(SIPRI YEARBOOK)に基づくとあります。そこでSIPRIのホームページを見てみると……。ありました! 今年6月に公表されたSIPRI Yearbook 2022

PDFをダウンロードして中を確認するとこのような表が見つかります。

2022年1月の時点で、計「12705」。新しいデータに基づくと、「1万3000を超す」という記述は不正確に思われます。念のため、ほかのデータがないかも調べてみました。長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNAの集計が見つかり、2021年6月現在で「13130」でしたが、2022年6月現在は「12720」。こちらも最新の数字は1万3000を下回っていました。その他国内外の関連機関のサイトなども参照しましたが、2022年に入って以降の時点として、1万3000を超えた数字を示しているものは見つかりません。

これらをもとに担当者と相談した結果、冒頭の記述は「世界には約1万3000の核兵器があるという」と変更されました。

新聞では大きな数字が概数で示されることも多く、文脈によっては大まかな規模感さえ伝わればよいという場合も往々にしてあります。しかし「~を超える」「~近い」「~を下回る」などの表現が適切かどうかについては、やはり実際の数を注意深く確認することが大切だと改めて感じました。

ちなみにこの記事が掲載された8月6日、広島で行われた平和記念式典に参列した国連のグテレス事務総長のあいさつにはこのような一文が。<Almost 13,000 nuclear weapons are held in arsenals around the world.

やはり「約1万3000」としておいてよかったと、ほっと胸をなで下ろしました。

このSIPRIの報告書によると、世界の核弾頭の数は減少傾向にあったものの、今後増加に転じる可能性があるとのこと。ロシアのウクライナ侵攻により「核のリスク」はかつてなく高まっているという指摘もあります。校閲する際は「1万3000を超えたか、超えていないか」という部分にばかり注目してしまいましたが、本当は「0」を目指さねばならない数字であることも忘れてはいけません。

【久野映】

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