11年ぶりに改訂された「新選国語辞典」が2月16日に発売されました。小型にもかかわらず9万3910語収録し、さまざまな情報がぎゅっと詰まったかわいい辞書です。編者の一人、木村義之・慶応大教授や小学館辞書編集室の方に伺ったお話を3回に分けて紹介します。

「新選国語辞典」10版=小学館提供

「新選国語辞典」(小学館)の第10版が、2月16日に発売されました。11年ぶりの改訂で、今回約4000語が追加されて9万3910語となりました。アクセント表示や言葉同士の関連を示す「参考」欄など情報がぎゅっと詰まったかわいい小型辞典です。編者の木村義之・慶応大日本語・日本文化教育センター教授と小学館辞書編集室の大野美和さん、坂倉基さんにお話を伺いました。3回に分けて紹介します。

【聞き手・大熊萌香】

中高生から社会人に

――新選国語辞典の特色やアピールポイントについて教えてください。

木村さん 初版の刊行のことばで「高校中学の全ての学習に必要な言葉を取り入れる」とうたっているように、中高生、さらに社会人もターゲットになります。古語や季語も入っているので、趣味で俳句や短歌を作っている人たちにも使っていただけているようです。

「ねぎ」は冬の季語、「ねぎぼうず」は春の季語

巻末には季語一覧も=小学館提供

 

限られた紙面で研ぎ澄ます

――デジタルの辞書もある中、「小型」で「紙」の辞書の意義は何でしょうか?

木村さん デジタルは分量がほぼ無限で速報性もあり書き換えもでき、リンクのさせ方によっては画像や音声に結びつけることができます。紙は紙面の制約があるということで歯止めがかかり、締まった形になると考えます。追い詰められた編集によって覚悟ができるのではないかと。積み重ねてきた語釈の長さの目安があり、どの程度なら飽きずに読んでもらえるか。長くなるほど詳しいけれど、焦点ぼけするということもあります。デジタルのコンテンツのもとになるような編集を紙が担っていると思います。紙は限られた中で研ぎ澄まして、機会があればデジタル化するというのが両者の関係ではないでしょうか。

「新選国語辞典」初版=小学館提供

――紙には紙のよさがあるというところを伝えていきたいので心強い思いです。

木村さん 初版から第9版まであるため、アーカイブになって変遷をたどることができ、この積み重ねがあとでいろんなものを検証するうえで役に立つと思います。速さだけを求めるわけではないので、その意味では紙の辞書の意味もあるのではないでしょうか。新語のほかに、既にある言葉の見直しもあり、版を見比べるとそこにどんな意識が働いたかがわかると思います。単語の形が一緒でも使い方が広がったりある方向に収束したりすることもあるので蓄積をみていただければ。

“歴代”新選国語辞典=平山泉撮影

 

伝統芸能の言葉にも光を

――今回の改訂のアピールポイントを教えてください。

木村さん 社会の動きと連動した言葉を加えたということです。前回の改訂は2011年1月で、その直後に東日本大震災という日本を揺るがす大事件がありました。20年になると今度は世界を揺るがすような新型コロナウイルスの影響があり、病気やそれを捉える人々の意識が変わったり、隠れた差別意識が出てきたりして、そういう社会と連動するようなものに急に注目しなければいけなくなりました。

そのほか、新しい外来語だけではなく、「大芝居」や、お芝居や踊りなどの伝統芸能の先生を意味する「おしょさん(お師匠さん)」という言葉も入れました。実際に習いごとをしている人はおしょさんと言っているようで、今まであったはずだがまだ入っていなかった伝統芸能の世界のものを結構入れました。講談や浪曲の「語り芸」という言葉も話芸とは別に加えるなど、日本の文化的活動の一部で存在していたものにもう一度光を当てるような言葉も採録しています。

 

地質学や気象の用語も

新たな学問的知見も取り入れ、地質学の「チバニアン」、「潜伏キリシタン」も今回は入っています。今まで教科書には「隠れキリシタン」として出ていましたが、歴史家たちの中でそういう言葉が使われるようになったため、ピックアップしました。

新選は気象の言葉もよく取り入れています。「寒冷渦」がラジオでよく聞かれるということがあり今回入れましたが、ほかの辞書では取っていないのではないかと思います。二十四節気以外の季節の変化である「雑節」という言葉も、今回表と一緒に入れました。土用や節分などは個別にはありましたが、それをまとめた言い方になります。

 

「緊急事態」というのは「緊急事態宣言」でも使われますが、「非常事態」という言葉と関連させながら、法律で使われるのかどうかという観点から書きました。「PCR法」は、当初はPCR検査で項目を立てようとしましたが、PCRという方式が鳥インフルエンザの確定やDNA鑑定など非常に幅広い範囲で応用される確立した科学の手法とのことなので、感染症のPCR検査と限定しない方がよいと思い、「PCR法」で新しく項目を立てました。

 

コロナ関係で言うと従来ツベルクリン反応での疑陽性はずっとありましたが、ここ最近偽陽性が偽陰性とともに使われるようになりました。検査で間違って陽性が出るんだというミスリードになり得るのではないかと考え、入れませんでした。科学的にあるんだという話になったら候補として挙がってくるかなと思います。今は緊急なので急ごしらえの言葉がたくさん出てきましたが、将来的にどうなるかということも考えなければいけません。

作家や俳人、歌人ら固有名詞も

――新選には固有名詞も多く入っていますね。

木村さん 固有名詞と普通名詞の分け方も難しいですね。目新しいのは「チバニアン」ですが、地質学上の時代である洪積世とか沖積世といった学術用語も入っています。固有名詞については、作家、俳人、歌人は比較的丁寧に取っていると思います。徳川家康や織田信長は有名人ですが入っていません。故人に限定しているので、吉本隆明と中上健次は今回入りました。瀬戸内寂聴は間に合いませんでした。

日本語学関係では、役割語という、例えば鉄腕アトムのお茶の水博士のしゃべり方(「わしは~」など)ですが、その解説を入れました。現実にそんな言葉を話す博士はいませんが、キャラクターづくりで用いられます。お嬢様言葉や「てよだわ」言葉など、あまりリアルの生活では聞くことはできませんが世界観を作るために必要なのが役割語で、学会でも定着しつつある考え方です。

――前回改訂直後の震災の影響はありましたか?

木村さん 直後なら水素爆発など原発や震災関連のものがありましたが、落ち着いて振り返ってみるともう一回拾い集めるものはそう多くありませんでした。例文では震災に関連して気を使った部分はあったかもしれません。

(中につづく)

フォローすると最新情報が届きます

Twitter