恒例となった「今年の新語」選考発表会、そして先週発売されたばかりの三省堂国語辞典第8版の話題で盛り上がった国語辞典ナイトの様子を、校閲記者がリポートします。

左から司会の古賀及子さん、ライターの西村まさゆきさん、三省堂国語辞典編集委員の飯間浩明さん、国語辞典マニアの稲川智樹さん、見坊行徳さん

 

11月30日、「今年の新語2021 meets 国語辞典ナイト」に参加しました。前半は「三省堂 辞書を編む人が選ぶ 今年の新語2021」の選考発表会、後半は「『三省堂国語辞典』スペシャル~『サンコク』ってそもそも何!?~」と題した国語辞典ナイトの2部構成でした。

コロナ下ならではの「有観客」「対面授業」

「今年の新語」は、その年を代表する言葉で、今後の辞書に採用されてもおかしくないものという基準でベスト10が選ばれます。選考発表会では、選考委員を務めた小野正弘さん(「三省堂現代新国語辞典」編集主幹)、飯間浩明さん(「三省堂国語辞典」編集委員)、山本康一さん(「大辞林」編集長、三省堂辞書出版部長)、荻野真友子さん(「新明解国語辞典」編集部)がそれぞれ思うところを語りました。

ベスト10とその選考過程についてはこちらの記事で紹介しています。

 

ベスト10と選外の発表後、今年の東京オリンピック・パラリンピックに関する言葉が一つも入らなかったことにも触れました。「選考委員が選ぶ10語」で唯一「オリパラ」を挙げていた山本さんが「公募での投稿は多かった。今の言葉として採用してもよかった」と話す一方で、飯間さんは「北島康介さんの『チョー気持ちいい』のような、多くの人が共有する言葉は出てこなかった」と評していました。

今回ランクインするのではないかという予想が出ていた「有観客」も選ばれませんでしたが、この言葉についての飯間さんの解説は目からうろこでした。新型コロナウイルス感染拡大前は、客席には観客がいることが当たり前だった。もともと日本にあった「着物」を「和服」というようになったのは西洋から「洋服」が入ってきて区別する必要が出てきたためで、和服は洋服があっての和服。同じように「有観客」も「無観客」ありきの言葉だ。今ならではの言葉と言えるのではないか――。つまり、コロナ禍により「無観客」が定着し、今度はその対義語として「有観客」という表現が使われるようになったというわけです。一緒に参加していた方がその場で「『対面授業』も似た性質の言葉だね」と話すのを聞いて、これまで自分がそうした新語に対して無頓着であったことに気づきました。こうしてみると、コロナ下で生まれた表現はまだまだありそうです。

マンガから三国に採られた言葉は

後半は、辞書を愛してやまない3人が「三省堂国語辞典」(以下、三国)第8版の刊行を前にさまざまな角度から切り込む「国語辞典ナイト」です。

1人目はインターネットメディア「デイリーポータルZ」のライター、西村まさゆきさん。話は6年前にさかのぼります。漫画雑誌「チャンピオン」や「りぼん」から国語辞典にのせたい言葉を探すという企画で用例採集されたもののうち、今回の第8版でいくつの言葉・語釈が追加されたかという検証です。挙げられた言葉はこちら。

漫画などをきっかけに浸透したと思われる「賞金首」は、新項目として採用されるのみならず、さらにはその由来まで説明されています。

名詞の後につく「~すぎる」も、第8版では豆知識(!マーク)付きで丁寧に説明されています。良い意味で使われるようになった「貪欲」の語釈は第7版から変わっていませんが、飯間さんによると「―に知識を吸収する」という用例でカバーできているとのこと。そのほかの語についてはぜひ、三国を手に取って確かめてみてください。

三国の強みは「日常生活的な言葉」

2人目は、国語辞典マニアの見坊行徳さんです。三国の歴史を振り返りながら、その特色を紹介していただきました。特に興味深かったのは、三国の初代編集主幹、見坊豪紀が著書「ことば さまざまな出会い」(1983年、三省堂)で語っているという「ことばのドーナツ現象」の話でした。見坊豪紀は、どの辞書にも載っているような言葉を「中心的な言葉」(伝統的な和語、漢語、カタカナ語)、辞書によってあったりなかったりする言葉を「周辺的な言葉」(かたい漢語、古い和語、百科事典的項目)と定義。三国第3版を出した後、追加項目についてほかの辞書に載っているかどうかを調べたところ、三国にしかなかった言葉は「中心的な言葉」「周辺的な言葉」のどちらとも言えない。

見坊豪紀が調べた言葉の例

 

つまり、中心と周辺の間には「ドーナツ状」の欠落があって、それまでの辞書はそういった日常生活的な言葉を拾えていないと思い至った――という説明でした。見坊さんは、日々のいろいろな言葉を採集、観察するという姿勢が三国の一番の強みであるとして、語釈でもその特徴が見られると言います。

見坊さんが挙げた、特徴的な語釈の例(丸数字は見出し語における語釈の順序)

「簡潔な語釈」→「シンプルすぎる」?

最後に、国語辞典マニアの稲川智樹さんが三国の問題点?を飯間さんに投げかけます。特におもしろかったのが、語釈がシンプルすぎるという指摘です。簡潔でわかりやすいのは三国の魅力の一つではありますが、たとえば稲川さんが挙げた第7版の「学習」。この語釈を小説における文脈と照らし合わせると、確かに物足りなさを感じます。ほかにも「稲」「加える」「迫る」「復讐(ふくしゅう)」なども「シンプルすぎる」との指摘がありました。

では、発売された第8版で「学習」はどうなっているかというと、

①(学校の)勉強。「学習塾」②自分で経験して、そういう場合にどうすればいいかわかること。「前回の失敗で学習した」

と、用例付きで記述が増えています。

稲川さんの指摘に答える形で、飯間さんから第8版で語釈を増やした言葉についての説明がありました。特に「迫る」は、これまでより丁寧に、生活の中で使われている意味を拾いあげている印象を受けました。


 

イベントの終盤、登壇者から「第8版が出たらそれぞれチェックして、またイベントを開きましょう」という発言がありました。普段の校閲の仕事では複数の辞書を引き比べることのほうが多いのですが、今回のイベントで出た言葉を含め、第8版の進化にも目を向けてみようと思いました。

【谷井美月】

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