「将来、辞書に載せたい」という言葉が挙がる「三省堂辞書を編む人が選ぶ『今年の新語』」。ランクインした語は、発表の半月前に見学させていただいた選考会で活発な意見が交わされており、賛否にかかわらず選考委員が「気になる」語だったことがうかがえました。

「今年の新語2021」選考会=東京都千代田区の三省堂本社で2021年11月14日、宮武祐希撮影

 

「三省堂辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2021』」の発表会が11月30日に開かれました。2015年に始まった企画で、三省堂(東京都千代田区)が毎年発表しているものです。

三省堂が刊行する国語辞典「大辞林」「三省堂国語辞典」「新明解国語辞典」「三省堂現代新国語辞典」の編集委員らが、公募で集まった今年の新語候補から選考します。新語といえば「現代用語の基礎知識選 ユーキャン新語・流行語大賞」もありますが、こちらが流行語に重きがおかれるのに対して「今年の新語」は「将来、辞書に載せたい」という観点で選ばれるところが大きく異なります。

大辞林から三省堂辞書出版部長の山本康一さん、新明解国語辞典から同部の荻野真友子さん、三省堂国語辞典から編集委員の飯間浩明さん、三省堂現代新国語辞典から編集主幹の小野正弘さんの4人が選考委員となりました。その議論の現場に立ち会わせていただいたので、その過程も交えて紹介します。

「将来、辞書に載せたい」という観点で選ぶ「新語」

募集期間は9月8日~11月1日と、前年より17日短く、そのためか投稿は延べ1525(前年比3329減)と大幅に減りました。挙がった語は777語(前年比72語増)と増えたのですが、投稿の集中するような語はなく、分散傾向になりました。

飯間さんは「投稿が少なかったのは募集期間が短かったことだけでなく、皆さん、どの語を挙げればよいか困ったということがあったのでは」と話していました。飯間さん自身、応募の候補語を見る前に自分でベストテンを考えたそうですが、なかなか思い浮かばず10語埋まらなかったそうです。

そんな中から選ばれた「今年の新語2021」、先に見せてしまいます。これです。

 

 

選考会を見学したとはいっても、一語一語について話し合っていたところを聞いただけで、順位は見ていませんでした。中には「あれ、これ反対意見が強くなかったっけ」というものもありましたが、思い出してみると、賛否はともかくランクインした語では活発な意見が交わされており、選考委員が「気になる」語だったということなのかなと納得しました。

「辞書編集者魂をかき立てられるかどうか」

「Z世代」が10位に入りました。

選考会で、小野さんがX世代もY世代もはやっていないのに、いきなりZ世代だけがというところが面白いと言い、山本さんも「同様にアメリカから入った言葉なのにZ世代は広まりましたね」と興味深い点を話しましたが、飯間さんは特定の世代を指すのであまり入れたくないという意見でした。

小野さんの考えた語釈はこれです。

 

 

小野さんは「辞書編集者魂をかき立てられるかどうか」を選考の一つの基準にしたそうです。そういえば、小野さんは選考会で「人流」について「まんまなので説明しなきゃという辞書編集者魂がかき立てられない。人流抑制は人の流れというより人の量的なものですよね。物流と違うところがある。そこがちょっと面白い。しかし、一番かというとどうかなと思う」と話していました。そのあたりも関係して、下馬評(ネット上をにぎわせた「今年の新語ガチ勢」たちの予想)では大賞という声の多かった「人流」が5位だったのでしょうか。

「黙食」は「選外」になりました。飯間さんが「コロナ色が強すぎる」と言っていた語です。ところが、その飯間さんが編集委員を務める三省堂国語辞典8版(12月17日発売)に「黙食」が載るのでした。今年の状況を映す言葉であることには違いないので一応「選外」に入れたのでしょう。

選考会で発言する飯間浩明さん=東京都千代田区の三省堂本社で2021年11月14日、宮武祐希撮影

ブームが去っても残る?「マリトッツォ」

「マリトッツォ」も三省堂国語辞典8版に載る言葉です。「今年の新語」の議論では荻野さん以外の3人が推していました。飯間さんは一時的なブームだとしても、ナタデココやティラミスのように、ブームが去った後も残るから載せるべきだと考えたといいます。そこに荻野さんはかみつきました。「スイーツのブームが確かにきていて、ナタデココやティラミスが入るのはわかるんですが、『ナタデココ、ティラミスにマリトッツォはならない』と思ったからです。トルコ風アイスやシナモンロールなどのように一時的に爆発的にはやって消えたものはいろいろあって、それをいちいち新明解には入れない」と明快です。

マリトッツォ

 

さて、マリトッツォがティラミスのように残るのか、トルコ風アイスのように消えるのか――来年以降どうなるか気になります。

「チルい」は「形容詞形になったので残る」

大賞は「チルい」。チルアウトという音楽用語からきており、荻野さんが選考会で「20年前から聞いたことがある」と言い、「昔バンドを組んで音楽をやっていた」ことが発表会で明かされた山本さんも以前から「チル」は使われていると話し、つまり「これは今年じゃない」という意見がありました。しかし、小野さんが学生に尋ねたところ「チルい」が今年挙がったということ、荻野さんがギャル語で「超チルなラッパー」という動画が今年はやったことを紹介。こうしたことが決め手となったようです。発表会では荻野さんがその動画の言い回しを「あーしの夢っすかあ、超チルなラッパー」と再現する一幕も。

「今年の新語」選考発表会。右から飯間さん、小野さん、山本さん、荻野さん、司会の古賀及子さん

 

飯間さんは「チルい」という形容詞の形になった以上、これは残るだろうと考えたそうです。小野さんが「昔はクールという外来語を『クールな』という言葉にして使っていたが『クールい』にはならなかった」と話すのを聞いて、発表会の客席にいた私は隣の席の辞書編集者と「クールは2音じゃないからだよね」などと話し合いました。「エモい」も「エモーショナル」をわざわざ2音に略した上で形容詞化しているのですから。

選考会では「チルい」以外に「チルする」などの形もあるから「チル」の語でランクに入れてはどうかという意見が出ていました。大辞林の語釈案には「お気に入りの店でチルする」のように動詞形でも使われることが明記されました。

 

そこで思い出したのは今年10月にあったこと。

たまごっち、写ルンです… 昭和から平成、レトロを楽しむZ世代」という記事の原稿を校閲していた後輩が、「チルする」と「Z世代」の両方に説明を補いつつ読みにくくない文にするにはどうすればよいか……と先輩に相談していました。「チルい」だけでなく「チルする」の形もあるのかどうかについても。その「チルい」が大賞に、「Z世代」も10位に入ったではありませんか。

後輩はまさに「今年の新語」を、新聞という媒体に載せるために格闘していたのでした。

この選考発表会の後、休憩を挟んで開かれたイベント「国語辞典ナイト」では、更に「今年の新語」に突っ込みが入ります。15回目となった今回の「国語辞典ナイト」の模様は、改めてこのサイトで紹介します。

【平山泉】

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