ツイッターなどの文末に使われる「笑笑」、皆さんは何と読んでいますか。わらわら? わらいわらい? えみえみ? しょうしょう? そもそも「読み」があるのでしょうか。同じくツイッターなどのww、座談会などの(笑)とともに考察しました。

 

内閣官房参与の辞任のきっかけに

 新聞社の編集局には「共同ピーコ」という放送がしょっちゅう流れます。共同通信社が新着ニュースやその配信予定時刻などを時々刻々知らせてくれるのです。5月24日、経済学者の高橋洋一氏が内閣官房参与を辞任した際のピーコには大笑いしました。

 辞任の原因の一つになったツイートは「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」。これと「屁(へ)みたいな」という表現で日本の非常事態宣言の緩さを皮肉ったツイートが批判を浴びて、辞任したことはご存じでしょう。この人のツイッターをちょっとのぞくと、他にも

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 というのがあり、「減らさない」→「増やさない」という訂正を後で流すなど、校閲の「他山の石」として興味深いものがあります。しかし、ここで言いたいのは彼のツイッターについてではありません。「笑笑」の読みについてです。

 私はピーコの担当者が「わらわら」と読み上げるのを聞き、その冷静な口調と内容とのギャップに噴き出したのです。そして「あれやっぱり『わらわら』と読むんだ」と誰に言うともなくつぶやきました。

新聞では(笑)を(笑い)に直す

 「笑笑」を何と読むか、辞書で調べてみましょう。

 日本国語大辞典によると

「えみえみ」=笑いを浮かべるさまを表す語

「えわらい」=ほほえみ笑うこと。声を出して笑うこと。

 

 などとあり、いずれも古語です。現代も使われる語としては、モンテローザの登録商標となっている居酒屋チェーン店「笑笑(わらわら)」がデジタル大辞泉プラスにあります。しかしツイートに使われるのとは違いますね。これはまだ国語辞典には出ていない新しい使い方のようです。

 ただ、本や雑誌で(笑)という表記はよく見られると思います。「笑笑」はその発展形といえるかもしれません。

 では(笑)はなんと読むのでしょう。ドラマかアニメで「かっこわらい」と言っていたのを聞いた記憶があります。「かっこわら」ではありません。それなら「笑笑」も「わらいわらい」になりそうですが、少なくともピーコではそうはなっていません。

 ちなみに、毎日新聞では座談会などで(笑)とある原稿が来ると校閲では(笑い)と送り仮名を入れます。これは常用漢字表の「笑」の使用例として「大笑い」とあることなど、送り仮名の原則から「わらい」は「笑い」と表記するのが適切という判断に基づきます。

 ただ、ちょっと不思議なことに(笑う)という動詞にしてもよさそうなのに、そういう選択肢は顧みられることもありません。(笑い)に統一するという決め事も少なくとも毎日新聞用語集にはありません。にもかかわらず(笑)を(笑い)に直すという不文律が存在しているのです。

(笑)は言葉なのか記号なのか

 10年以上前、ある校閲記者が「(笑)は記号の一種なので送り仮名は不要」という意見を述べたことがありました。確かに、ニコニコマークのような笑顔のマークを「わらい」と読む人はいないでしょう。その「記号」をわざわざ「言葉」にする必要はないということです。議論に発展することもなく十年一日のごとく(笑い)という表記を続けていますが、一理あると思いました。

 例えば「!」は「感嘆符」「エクスクラメーションマーク」「びっくりマーク」(数十年前の校閲職場の読み合わせのときは「雨だれ」と言っていました)といろいろ名称がありますが、「読み」とはちょっと違いますね。言葉ではなく、気分を伝えるための記号だから、正確な読みもないということです。

 高校の国語の先生が、生徒の作文に「!」が多いことを指摘し「!」を使わずに気持ちが伝わる文章を書くよう指導していたのを思い出します。つまり「!」に頼るのは貧困な言語能力の裏返しだということでしょう。

wwにうかがえる「嘲笑」のニュアンス

 「笑笑」という表記に話を戻すと、これも言葉としての「笑い」に置き換えられない、記号の一種といえるかもしれません。それを「わらわら」と共同ピーコが読み上げたことで図らずもその滑稽さが前面に出たように、公的な場になればなるほどその使用は場違いになります。

 仮に「笑笑」が新聞原稿に出てきたとして(笑)を(笑い)に直すように「笑い笑い」に直す人がいるでしょうか。まさかね。それ以前の問題として「笑笑」というのは新聞紙面には不適切として削られるでしょう。

 似たようなニュアンスでツイッターなどで用いられるwwも、新聞で用いられることはまずありません。これも「読み」がよく分からない一種の記号といえましょう。あえて口に出すとすると「ダブリューダブリュー」と言うしかありません。実際、俗語も積極的に採用する三省堂国語辞典(第7版)はダブリュー[W]の項の④に掲げています。

 〔←warai=笑い〕〔俗〕〔インターネットで〕(あざ)笑うことをあらわす文字。「まさかwww」〔二十一世紀になって広まった使い方〕

 ここで「(あざ)笑う」となっているのは、「あざ笑う」ニュアンスの使い方が、全てではないものの多いことを表しています。実は私はこの語釈を拙著「失礼な日本語」(ポプラ新書)に引用し、たとえ本人に嘲笑の意図がなくてもそう受け取る人がいる可能性を指摘しました。その文章は、ある大学入試の今年度の小論文問題として出題されました。思いがけないことでしたが、この使い方を気にしている大学の先生は多いのかもしれません。

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公の空間では「笑笑」は不快感も

 というさりげない(どこが?)宣伝はおくとして、「笑笑」も、本人が無邪気に面白がっている場合は少なくないのでしょうが、ネットであれ公の空間で発せられると、笑いを共有するどころか不愉快に思う読者は必ずいます。

 実は「さざ波」ツイートは、その内容もさることながら、「笑笑」がそれ以上の不快感を与えたのではないかという気もします。コロナウイルスで大変な中、笑っている場合ではないのです。

 ともあれ、「笑笑」を紙の辞書に載せることがあるとすれば、しばらく改訂のない三省堂国語辞典の次の版に違いないと思うのですが、載せるかどうか、少なくとも候補には挙げているのではないでしょうか。どういう読みで載せるか、やはり「わらわら」かなどと想像するうちに、私もつい(笑)を付けたくなってしまいました。

【岩佐義樹】

いわさ・よしき 広島県出身、1987年入社。用語幹事、校閲センター部長を歴任。著書に「毎日新聞・校閲グループのミスがなくなるすごい文章術」「失礼な日本語」(以上ポプラ社)、「春は曙光、夏は短夜 季節のうつろう言葉たち」(ワニブックス)。執筆・関連記事一覧はこちら

 

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