校閲の大ベテランが新しく出た3版を手に取って真っ先に見たのは「募金」の項目。そして、大きなため息――。「誤用」に厳しいといわれる #明鏡 国語辞典ですが、すべてそうとは限りません。今回そこに加えられた微妙な改訂など、校閲者が気になった変化を挙げてみました。

 

 10年ぶりに改訂され、2020年12月に発売された明鏡国語辞典。前の版と比較して校閲者が気になったポイントをまとめました。

(名を特記していない画像は明鏡国語辞典。黄色い強調は引用者)

「募金」に寄付の意味を明記

 校閲の大ベテランが3版を手に取って真っ先に見たのは「募金」の項目でした。そして、大きなため息をついたのです。

 

 多くの辞書は「寄付金などを広く一般から集めること」(新明解国語辞典8版)のように、読んで字のごとく「お金を募る」意味を基本としています。

 ところが、明鏡は「金を寄付すること」という逆の意味を普通に❷で載せています。もちろん❶を「本来の意」としてはいますが、2版では俗語であることを示す「俗」をつけていたのに、それもなくなっています。

 言葉の使い方について「誤り」などと厳しく書いてあるところが多い一方でなぜか「募金」には優しい……。現に寄付する意味で募金と言う人が多くなっているためでもありますが、新聞としては逆の意味でも書かれていると読者にわかりにくくなってしまうので使うわけにはいかないのです。

「雨模様」だんだん降りが強く?

 「雨模様」は本来雨が降りそうな空の状態のことをいい、つまり雨は降っていないのですが、近年「小雨が降ったりやんだりすること」という意味にとらえる人が増えています。2010年度の文化庁「国語に関する世論調査」でも「降りそう」43.3%、「降ったりやんだり」47.5%と逆転しており、新聞ではどちらの意味でも使いにくい言葉になっています。

 

 明鏡2版でも「最近の言い方で」として「小雨が降ったりやんだりすること」の意味を入れていましたが、3版では、「雨が降ったりやんだりすること」と「小雨」が「雨」になり、「また、雨が降っていること」も加わっています。よりしっかり雨が降っているような書き方になりました。「雨が降りそう」→「小雨が降ったりやんだり」→「雨が降っている」とより雨が降るように使い方が変わってきているということでしょうか。ますます新聞では使いにくくなってしまいそうです。

認めてしまったの?「貯金を切り崩す」

 また、このようなものもあります。

 

 貯金や蓄えを少しずつ取ってなくすことを「取り崩す」といいますが、最近これを「切り崩す」と書く人がいます。校閲では直すようにしているのですが、明鏡3版には「〔新〕預金や貯金から、少しずつ使う」と入りました。「『取り崩す』との混同から」という注記もありますが、「俗」というマークでなく「新」というマークです。凡例によれば「俗」は「改まった場では使いにくい俗語」、「新」は「比較的新しく生まれた語や意味」を示しているそうです。2版では載せていなかった使い方を3版では認めてしまったように見えます。

海岸の「しんしょく」は「侵食」に

 海岸を「しんしょく」するという場合に「浸食」を使うか「侵食」を使うか。辞書の多くは「浸食」としている一方で、広辞苑が2018年の7版で「侵食」に変えるなどの動きもあったので明鏡は3版でどうなったか気になります。

 

 「浸食」から「侵食」に切り替えています。現在は教科書がほとんど「侵食」にしているので、今回の改訂で特に中高生を意識したという明鏡としては当然の変更だったと思います。教科書が「侵食」を使うようになったのは学術用語集に従ったからだそうですが、「侵食」を用いるのは「学術的な文書を中心に」と説明しています。

【平山泉】

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