人が集まる場所などで撮影した写真をネットなどに載せる場合、個人が特定できるような形になっていると、肖像権の侵害になる可能性があります。――10月に開かれた校閲記者によるトークイベント「校閲と知財から考えるメディアの未来」の内容をまとめた前編です。

 

2020年10月23日、毎日新聞東京本社の毎日ホールで「校閲と知財から考えるメディアの未来」と題し、毎日新聞・共同通信の校閲記者によるトークイベントが開かれました。その模様を前後編の2回に分けてお届けします。

登壇者は、平山泉(毎日新聞社)▽内田朋子さん(共同通信社)▽斎藤美紅(毎日新聞社)▽酒井優衣さん(共同通信社)▽桑野雄一郎さん(高樹町法律事務所・弁護士)――の5人です。

【斎藤美紅】

通信社はニュース素材の“市場”

はじめに、新聞校閲と通信社の仕事について説明しました。

「地味にスゴイ! 校閲ガール」のドラマでかなり存在が市民権を得てきた校閲ですが、スゴイというよりかは、読者のみなさまもご存じのとおり正直「地味」な仕事です。

新聞校閲の詳しい仕事についてはこちらの記事を読んでいただくことにして……。

今回一緒にお話しさせていただいた「通信社」の仕事を紹介します。

日本には「共同通信社」「時事通信社」の二つの通信社が存在します。世界的には「ロイター」「AP通信社」などがなじみ深いでしょうか。通信社は自社の媒体を持ちませんが、いわば食材における豊洲市場のようなもので、多岐にわたる記事素材を新聞社など報道機関に配信しています。

一つのニュースに対して、速報、本記、サイドの読み物、影響がある事柄、海外の反応……など、関係各所に独自取材をし、充実した素材を配信します。また、関連の写真についても配信しますが、写真は印象にも作用するため、慎重な検討がなされています。

これらの素材の中から、新聞社は「自社で取材した素材」「通信社の素材」から取捨選択をし、実際に紙面を作り上げていきます。この日登壇した内田さん、酒井さんのように通信社にも校閲者がおり、日夜出稿される膨大な記事と向き合っています。我々新聞校閲も配信された記事を再度チェックするので、とても関わりが深いのです。

肖像権の侵害となるのはどういう時?

次に、この日の本題の「校閲と知財」についてお話ししました。権利の詳しい内容については、弁護士の桑野先生が説明してくれました。

みなさんは「肖像権」と「パブリシティー権」の違いをご存じでしょうか? 肖像権とは①「勝手に撮らないで」②「勝手に使わないで」と主張できる権利のこと。直接定めた法律はありませんが、憲法13条(幸福追求権)を根拠に判例上認められています。

①の「勝手に撮らないで」では、過去にあるカメラのPRで道行く人を無差別に撮影して炎上したケースがあります。特定の個人を狙った撮影であったこと、拒絶の意思を示している人を撮影したことなどが問題になりました。このように、撮影すること自体が肖像権侵害となるケースがある一方で、防犯カメラやドライブレコーダーの普及により、パブリックスペースでの一定の目的の下での撮影は許される傾向にあります。

②の「勝手に使わないで」は、メディアが特に気にしなければならない部分でもあります。①のように撮影自体がNGであれば、使用ももちろんNGとなります。また、撮影自体は許可されたものでも、それをどのように使用するか、撮影された本人がどの程度の範囲での使用を想定していたか、どれだけの人がその写真を見られる状態にあるのか、など、きちんと想定し、確認しなければ肖像権の侵害になることがあります。

事件・事故のニュースや人が集まる場所で撮影した写真の使用では②に配慮し、後ろ姿の写真や個人が特定できないように撮影した写真を使用するのが望ましいといえます。

被写体の個別事情にも配慮を

さて、さまざまな事件のニュースで「容疑者が逮捕された」写真の手元がモザイクになっていたり、布が掛けられたりしていて不思議に思ったことはありませんか? これは「手錠」を映さないように配慮しているのです。容疑者であっても、屈辱的な写真を載せることは人権を侵害していることになります。

(画像はイメージ)

 

しかし2008年に台湾の陳水扁元総統が逮捕された際は、元総統が手錠をかけられた手元を大きくかかげて報道陣にアピールしました。これは「不当な扱いである」という意思を示す本人のパフォーマンスであるため、報道意義があり、手錠をそのまま載せてよいといえます。

街ゆく人や未成年を撮影した場合の注意

ここで酒井さんから「街ゆく人を撮影した場合、肖像権はどうなるのですか?」と質問が出ました。

例えば会場に向かう受験生の写真。記者は腕章をつけて撮影に臨んでいますが、ひとりひとりに声をかけて許可をとっているわけではありません。「受験したことを知られたくない」など個々の事情があるにもかかわらず、ここで大きく顔が写ってしまうことで周りに知られてしまう……というケースも考えられます。

(画像はイメージ)

 

また、新型コロナウイルス流行で緊急事態宣言が出た際には、人通りのほぼない銀座の街を、ベビーカーを押して歩く女性が大写しになった写真がありました。緊急事態宣言下でも生活必需品の買い物や病院への通院など、必要な外出はありますし、この方がどういった理由で歩いていたかはわかりません。それがこのように、ともすれば個人が特定できるような形で写真が載ってしまうと、背景を知らない他者がいわゆる「自粛警察」となり、撮影された人をバッシングすることも考えられます。桑野先生によると、これらの例はいずれも肖像権を侵害する可能性があるためあまり使用しないほうがよいだろうとのことです。

(画像はイメージ)

 

未成年の写真の使用についても説明してくださいました。

繁華街で楽しそうにジュースを飲む中学か高校の生徒の写真。制服で写っており、学校までわかってしまう可能性があります。ネットに載せてしまうと思わぬ不利益をうける可能性があります。また、撮影された時は「掲載OK」でも、年月がたって本人の気持ちが変わることも考えられます。大人になって「中高生の頃の写真がずっとネットで見られる」ことが嫌だと感じるかもしれません。未成年の写真の使用には特に注意が必要だと言えます。

(後編ではパブリシティー権、商標、引用を取り上げます)

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