言葉の正誤をはっきり書くことが多く“気難しい”イメージもある #明鏡 国語辞典は、一方で時代の変化にも敏感です。「愛する」で02年の初版から「異性(まれに、同性)を恋しく思う」としていたのは今回「人を…」になり、新項目では「義実家」「四継」などが採用されました。

大修館書店編集第1部の正木千恵部長(奥右)と松岡澪さん(同左)

 

10年ぶり改訂の第3版が発売された明鏡国語辞典は、言葉遣いの正誤などの詳しい説明が特色で、校閲者にとって座右に置きたい辞書の一つです。今回の改訂について大修館書店編集第1部の正木千恵部長と松岡澪(みお)さんに聞きました。

(辞書画像は明鏡3版から。黄色の強調は引用者)

明鏡国語辞典の編集者に聞く

「義実家」「四継」など約3500の新項目

――新しく入れた言葉にはどんなものがありますか。

松岡さん 第3版では最新の言葉を約3500語増やしました。「SDGs」のように時代を反映した言葉や、ミーティングの意味の「MTG」、「エビデンス」などのビジネス語。それから「サブスク」「睡眠負債」など生活に密着した言葉も増補しました。高校生に引いてほしいということで、評論文のキーワードや教科書の定番教材の言葉なども収録しています。

正木さん 漢語の新語はカタカナ語のように多くないので、「義実家」というのはめずらしいかなと思います。

新収載語の例

 

正木さん 新語は、新聞やネットをはじめ、さまざまな方法で集めます。社内で教えてもらったりするものもあります。

松岡さん 10年先まで生き残る言葉を入れるというのが基本方針です。みんなが聞くようになり、今後も使われていくだろうと思われる言葉ですね。今回はビジネスで役立つ言葉を重点的に入れたいなと思って、「MTG」などが入りました。

 もともとオリンピックがある予定だったこともありまして「四継」「セパタクロー」のようなスポーツ関連の言葉や、「タッカルビ」「ロマネスコ」など食べ物の項目も増やしました。

新収載語の例

 

「愛する」の「異性(まれに、同性)」は

――性的少数者やジェンダーについての配慮は、明鏡が早くから進んでいたと思いますが、3版ではどうなりましたか。

2版の「愛する」

 

正木さん 「愛する」は2002年刊の初版から「異性(まれに、同性)を恋しく思う」としていて、多くの方が注目してくれました。3版では「恋愛の対象として人を恋しく思う」としました。

3版の「愛する」

 

伝統的な言葉の使い方を細かく説明

――国語教育の変化にも対応しているそうですね。

松岡さん 新学習指導要領や、新しく始まる入試にも対応しました。例えば、「ことば比べ」「ことば探究」というコラムを新たに60ほど追加しました。高校生を意識してつくりましたが、大人の方にも役立ててもらえると思います。

 「ことば比べ」は日本文化に関わる言葉で、「釜」「窯」「竈」の違いや「火鉢」と「いろり」の違いなどを取り上げました。電気炊飯器しか知らなくても違いが分かるように解説したいというところから始まりました。

 

松岡さん 「ことば探究」は、「すこぶる」「刹那(せつな)」など、現代の話し言葉ではあまり使わないけれども、文学作品などにはよく出てくる伝統的な言葉をとりあげて、解説しています。

 

 

松岡さん 2021年から始まる大学入学共通テストの試行調査(プレテスト)の問題で、「いぶかる」という言葉の意味を問う問題があり、そのような問題に対応するつもりでつくりました。

正木さん 「いぶかる」などは教科書に載っている文学作品でも普通に出てくる語ですが、話し言葉ではなかなか使いませんよね。

 

正木さん 大学入学共通テストもそうですが、学習指導要領も大きく変わります。新しい高校の教科書は2022年から使われますが、国語は「戦後最大の改革」と言われ、全く新しい科目になります。

 例えば必修の科目「現代の国語」では、「実社会において理解したり表現したりするために必要な語句の量を増すとともに、語句や語彙の構造や特色、用法及び表記の仕方などを理解し、話や文章の中で使うことを通して、語感を磨き語彙を豊かにすること」を学習することになります。

 辞書の語釈や教科書の注釈だけでは、使い方や細かなニュアンスまでは分かりません。「いぶかる」も、よく知っている「疑う」という言葉との違いを通して、もう一歩理解を進めさせたい。形だけでなく、実感を持って語彙を獲得してほしいと思っています。

「ことば探究」「ことば比べ」の項目一覧=総目次より(クリックで拡大)

伝わるコミュニケーションのために

――3版は箱がチェック模様で、かわいいですね。

松岡さん 中身のデザインを変えたので、外側もがらっと変えたいと思い、手に取りたい、そばに置きたいと感じてもらえる装丁を目指しました。「書店などで目に入るように」ということと、「信頼感がある」ことを特に意識しました。

 

――中高生が使うことを強く意識しているんですね。

正木さん 昔に比べて、ネット上の文章など、校正を経ていない文章を見る機会が増えているし、お互い違うことを思って同じ言葉を使っているということも増えているんじゃないかなと思います。

 ある予備校の先生が「うちの4歳になる娘が……」という文を英語に直す問題を出したとき、生徒の多くが「なる」を変化と捉えて「娘」をもうすぐ4歳になる3歳だと思ったという話があるそうです。

 ある人にとっては当たりまえでも、受け手がそう受け取っているとは限らないし、自分では気づかずに実はコミュニケーションができないということもあるんだなあと。

 明鏡は国語辞典の中でも、誤用や使い方を重視していて、その点でますます活用していただけるのではないかなと思っています。

【まとめ・河村雄一郎】 

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