「どや顔」は、改まった場面で使うなら「したり顔」「時を得顔」。そんな類語が分かる「品格」欄や、慣用句「骨を埋める」を「ほねをうめる」と読んでしまうような気づきにくい勘違いを直せる「読み分け」欄など、#明鏡 国語辞典の新しい工夫について編集者に聞きました。

大修館書店編集第1部の正木千恵部長(右)と松岡澪さん

 

10年ぶり改訂の第3版が発売された明鏡国語辞典は、言葉遣いの正誤などの詳しい説明が特色で、校閲者にとって座右に置きたい辞書の一つです。今回の改訂について大修館書店編集第1部の正木千恵部長と松岡澪(みお)さんに聞きました。

(辞書画像は明鏡3版から。黄色の強調は引用者)

明鏡国語辞典の編集者に聞く

ふさわしい類語示す「品格」欄

――第3版での新しい試みは。

 

松岡さん 今回新しく「品格」欄というものを作りました。普段使いの言葉から、あらたまった場面でも使える類語を探せる欄です。

 例えば、「少し」という項目の「品格」欄では、「幾分」「いささか」……といった類語を挙げています。

 それぞれ用例を示し、必要に応じて、「一抹」は不安や寂しさ、「一縷(いちる)」は希望や望みなど前向きなものに使う、というような説明も入れ、文脈に応じた使い分けができるようにしました。

 

松岡さん 「品格」欄は、ある国語の先生の、中高生に作文を書かせると何でも「すごい」などの言葉で書いてしまうというお話がきっかけで生まれた特色です。

 国語辞典で、語彙(ごい)を広げる工夫ができないかと考え、このような形で実現しました。

 

松岡さん いろいろな類語への広がりを一覧できるので、もともとは高校生に向けて考えた欄ですが、大人の方にも便利に使っていただけるのではないかと思います。

 「飲み会」などの語にも「品格」欄を入れました。

 

松岡さん 今回新しく収録した項目では、「どや顔」に「品格」欄があります。「したり顔」、「時を得顔」といった「品格語」を挙げています。

正木さん 「時を得顔」のようにすごく古風な言葉が入っているので、そういうところも楽しんでもらえたらなと思います。

 きっかけがないと語彙は広がらないので、興味をもって引いてもらえるような類語も意識して入れました。

 

松岡さん 類語と一口で言っても、イコールになる語とならない語がありますし、「品格語」の中でも仰々しくなってしまう語と普段のコミュニケーションでも使いやすい語があると思うので、それぞれの語の性質が分かるよう、用例を入れています。

 

――品格欄をつけた言葉はどういう基準で選んだのですか。

松岡さん 普段使いやすい語や「品格語を入れたい」ということで入れた言葉もあります。後ろの見返しに「品格」欄一覧があります。

「品格」欄の一覧(クリックで拡大)

 

正木さん 「どや顔」「やばい」のように、高校生が使ってしまいがちな、日常語も意識して選びました。

思わぬ間違いに気づける「読み分け」欄

松岡さん それから、辞書では多分初めてなのではないかと思いますが、「読み分け」欄を新たに設けました。

 例えば「注ぐ」。どういうときに「つぐ」と読み、どういう時に「そそぐ」と読むのかを説明しています。

 

松岡さん 「主」は、「主として」と言うときには「しゅ」と読むのが普通ですが、「おも」としてと読んでしまう人がいるという話を聞いたことがあります。そんな読み間違いを防ぐのにも役立ちます。

 

正木さん 最近の高校生が「床の間」を「ゆかのま」と読んでしまうという話も、ある先生からお聞きしました。

 書籍も常用漢字以外の漢字にはルビを振るんですが、こういう平易な字にはルビを振らないので、意外に読み間違いがおこりやすいんですね。

 

松岡さん 慣用句で「骨を埋(うず)める」を「うめる」と読むのは誤りですが、そういう解説も入れています。知らないと「うめる」と読み、恥ずかしい思いをしてしまうこともあるかと思います。

 

正木さん 言葉を知っている人は読み間違いはそんなにないかもしれませんが、なにしろ気づきにくいので、大人でも思わぬところで勘違いしていることがあります。ひっそりこっそり読んで、直してもらえれば。

よりストレートに「書き分け」欄

松岡さん 「書き分け」欄も新しく設けました。同音異義の漢字の「つくる」「ついきゅう」の書き分けなどをとりあげています。平成26(2014)年の文化審議会国語分科会の「『異字同訓』の漢字の使い分け例」報告にも準拠しています。

 

正木さん 読者から、明鏡の表記の解説は詳しいけれど、説明が入りくんで分かりにくいという声もいただいていました。いろいろな事情や立場に配慮して、説明に苦労していたのですが、もう少しストレートに言うようにこころがけました。

 

――明鏡は「新聞ではこう書く」という説明も特徴的ですね。

新聞の表記を記している項目の例

 

正木さん 昔から新聞には独自の表記の方針があり、また影響力も大きいため、初版の時から説明を入れてきました。

 例えば「斑点」の代わりに使われていた「班点」など、かつて行われていた表記も、現在私たちが目にする文献の中で出会うかもしれないので、「もと、新聞では『班点』で代用した」のような言い方で説明を残しています。

【まとめ・河村雄一郎】 

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