唯一、日本語のルールから外れて関係者を悩ませた言葉が「チェーンソー」――語釈が注目される新明解国語辞典ですが、「かぞえ方」欄をはじめ運用面の説明も手厚く、言葉を学ぶ人や校閲者には大いに参考になる辞書です。さらに充実させた点などを聞きました。#新明国

 

 三省堂の「新明解国語辞典」(新明国)第8版が11月19日、全国で発売されました。約9年ぶりの改訂で、約1500の新語・新項目が追加されました。刊行以来累計2200万部を発行している〝最も売れている小型国語辞典〟について、三省堂辞書出版部の山本康一部長、吉村三恵子さん、荻野真友子さんにお話を伺いました。

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「八階」は「はっかい」?「はちかい」?

――新聞校閲の担当者としては、助数詞が書かれているところが便利です。そうした工夫は第8版でも進めていますか。

第8版の「すむ」の「運用」欄=三省堂提供、黄色の強調は引用者。以下同

吉村さん 新明国では運用面の情報として発展してきた部分ですね。

 第4版で「かぞえ方」が入り、第5版で「基本構文の型」、第6版で「運用」欄、第7版で「文法」欄が入りました。日本語をより客観的にみていこうという姿勢が入っています。

 

第8版の「すぎる」の「基本構文の型」と「文法」欄

 

吉村さん 2匹(にひき)は「ひき」なのに、どうして3匹(さんびき)になると濁音になるかとか、日本語を母語とする人は意識せずに使っています。濁音になったり清音になったりには個人差もありますが。

 それを今回、かぞえ方欄に加え、また、付録に「数字の読み方」を新設しました。

第8版の「貫」の「かぞえ方」欄

 

――日本語を勉強している方などには便利ですね。

吉村さん 私たち日本語の母語話者は本当に意識したことのない部分ですね。編集委員の先生方の中でも個人差があり、意見が割れた部分も多く出ました。さまざまな意見をまとめて、こういうケースでは多くこう読まれる、という公式のようなものを今回入れてみました。

――数字の読み方は、毎日小学生新聞の校閲でルビ(ふりがな)を振る際に頭を悩ませる部分です。小学生新聞は総ルビなので、これまで意識したことのない読みを、責任を持って一つ選んで付けなくてはいけなくて。

吉村さん 難しいですよね。編集委員会をやっていても、人によって私はこうは言わないとか、今の人たちはどうだろうとか、デパートではこうだったとか。「八階」は「はっかい」なのか「はちかい」なのかとか、両方ありうるんですけどね。

山本さん 地味ではありますが、「数字の読み方」という付録が今回ついたことは、他にはなかなかないことだと思います。

付録「数字の読み方」の冒頭

 

荻野さん 数え方に特化した辞典は他にもありますが、一般的な国語辞書では、助数詞の話はそんなに載っていませんよね。自然言語処理などの分野で、読み方の法則のようなこうした資料は役立つかもしれません。

吉村さん ひとり、ふたり、とはいうけど、「三人(みたり)」からはもう言わないとか。みたり、よたりって、昔は使っていたのかもしれませんが。そのあたりからは漢語になって、さんにん、よにん、と言われている。今回この辞書では触れていませんが最近、「いっこ」っていう言い方が増えたように思うんです。

荻野さん なんでも「個」で数えちゃうっていう。

吉村さん 和語的な言い方である「ひとつ」が、使われなくなってきているなって、気になるんですよ。「いっこ質問いいですか」とか言われると。ウウッ!て(笑い)。年齢についても1歳(いっさい)っていう言い方があるのに、いっこ違い、とかって。一概に悪いことではなくて、言語の合理化かもしれませんが。

「ウェア」→「ウエア」 アクセント参考に

――外来語表記で「ウイ」「ウエ」「ウオ」とするか「ウィ」「ウェ」「ウォ」とするかは、辞書や語によっても違っていますが、新明解国語辞典が区別する際の考え方を教えてください。

山本さん 新明国はアクセントを載せています。1991(平成3)年内閣告示「外来語の表記」では、基本は「ウイ」「ウエ」「ウオ」と示しながら、「より原音に近く書き表そうとする場合に用いる仮名」としては「ウィ」「ウェ」「ウォ」を用いると規定されていますが、元々日本語と外国語では音韻体系が違うわけですから、いくら原音に近いといっても、大して近くもありません。仮名表記のみならず、アクセントも考えなければならない。

吉村さん 語頭になる場合は、参考にするのはアクセントの2拍目。窓ならウィンドーでなく、ウインドーですよね。ウインドーショッピング。

――「ウ・イ」ってはっきり発音しているでしょう、という話ですね。

吉村さん 新明国で今回変えたのは「ウエア」。第7版では「ウェア」(2拍)にしていたのを、今回3拍で「ウエア」にしました。一方、「ウェアラブル」は小さい「ェ」です。

山本さん 世間で目にする表記は(ウィ、ウェ、ウォのような)小書きの傾向がどんどん進んでいて、国語辞典も基本的にはそちらの方向にいかざるを得ません。

 しかし新明国のようにアクセントを載せているものは、アクセントとの乖離(かいり)があまりに大きくなってしまうと、うそのアクセントを載せることにもなってしまう。そこのバランスを見ながらやっている結果が、小書きになっているものとなっていないものが併存しているという状態ですね。

ルールから唯一外れた「チェーンソー」

吉村さん 編集委員の先生を悩ませてしまったのが、「チェーンソー」。アクセントをどこに置くかというと、どうしても長音(ー)の上にアクセントがきてしまうんです。普通、日本語のアクセントとしては、それはありえない。長音のところにアクセントのヤマがくるというのはほぼない。

荻野さん 長音は弱い音だから。

吉村さん そうです。ただ、チェーンソーだけは。

山本さん チェ「エ」ンソー。

荻野さん 「エ」なんでしょうね、たぶん。長音というよりは。

吉村さん 「チエーン」とはいわないし、うーん。先生もだいぶ悩まれて、いろんな方に確認して、理論上は出てこないはずですが、「チェーンソー」だけはルールから外れるアクセントになりました。

【まとめ・塩川まりこ】

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