若者がよく口にする「違くて」「違かった」「違くない」。載せる辞書も現れ、文法的に説明しようとする向きもありますが、文法上は決定的な欠陥があります。間違いは間違いと指摘することが本人のためでもあります。

大辞林4版

 

初めて見た「違くてて」

 でんぱ組.inc(インク)というアイドルグループが、4月にユーチューブで「なんと!世界公認引きこもり!」というミュージックビデオを発表しました。

 新型コロナウイルス感染防止の巣ごもりが奨励されている前代未聞の事態にすかさず対応したタイトル、テレワークによる制作方法も特筆すべきですが、歌詞もなかなかのもの。「『在宅』って名の剣で世界を照らせ」と、慣れぬ在宅校閲に戸惑う当方を勇気づけてくれます。

 もっとも、ここで取り上げるのはその歌ではありません。きっかけは「毎日ことば」のツイッターに「違くて」という言い方について調べてほしいという投稿が寄せられたこと。検索していると、でんぱ組.incの「愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ」という曲に、気になる歌詞をたまたま(ファンではないので)見つけたのです。そこから「なんと!世界公認引きこもり!」というタイムリーな曲の存在に気付き、冒頭で紹介したというわけです。

 問題の歌詞というのは「みんな同じで みんな違くてて 大好きだ!」。

 金子みすゞの童謡「私と小鳥と鈴と」の有名な一節「みんなちがって、みんないい」を連想させますが、注目したいのは「違くてて」です。

 「違って」のことを「違くて」と言う若者が多いことは気になっていましたが、「違くてて」というのは初めて見ました。「違っていて」→「違ってて」と、「違って」→「違くて」の二つの俗語化が合体した新種表現といえるでしょう。

載せる辞書も現れたが

 「違くて」というのはほとんどの辞書にありませんが、2019年刊行の「大辞林」4版に登場しました。

ちがくて【違くて】(連語)〔動詞「違う」を形容詞としてとらえ、その連用形「ちがく」に接続助詞「て」の付いたもの。近年の若者言葉〕違って。違っていて。

 【違くてて】はありません。これは「違くて」では物足りず「違っていて」の短縮形「違ってて」のように「て」を重ねたと思われます。

 大辞林では他にも「ちがかった」「ちがくない」を見出し語としています。

ちがかった【違かった】(連語)〔動詞「違う」を形容詞としてとらえ、その連用形「ちがっ」に完了の助動詞「た」の付いたもの。近年の若者言葉〕違っていた。違った。

ちがくな・い【違くない】(連語)〔動詞「違う」を形容詞としてとらえ、その連用形「ちがく」に補助形容詞「ない」の付いたもの。近年の若者言葉〕違わない。〔主に疑問の形で用いる〕

 いずれも「違う」を動詞ではなく形容詞としてとらえ、文法的に説明しようとしています。確かに「違う」というのは形容詞的な意味内容があります。活用も「近い」が「近くて」「近かった」「近くない」となるのと同様と考えると無理はなさそうです。

「違う」は形容詞になり得ない

 しかし、「違う」を形容詞とみなすのは決定的な欠陥があります。それは「い」で終わる終止形がないことです。辞書では通常、活用語は終止形のみが挙げられます。大辞林が「連語」として三つのパターンを挙げたのも、終止形はあくまでも「違う」であることから、新しい形容詞として認められなかったからでしょう。

 ただ、次の考え方もあるようです。以下は国立国語研究所「ことば研究館」のサイトから。

首都圏などで聞かれる「ちげーよ」という言い方から,既に形容詞の終止形「ちがい」が成立しているとする考え方もあります。「ちげー」は「ちがう」からの変化形とは考えにくく「ちがい」からの変化だろうというわけです。

 でも、そうでしょうか。「ちげえねえ」は捕物帖や時代劇で昔からよくあるせりふですが、それは「ちがいない」という基本があってのこと。若者の「ちげーよ」は「ちがいよ」を前提に崩したものではなく、終止形「ちがい」(「が」にアクセント)が成立していると考えるのは無理がある気がします。だからでしょう、形容詞としての「ちがい」も「ちげえ」も大辞林は見出しにしていません。

 なお、「違うくて」という別の形もあります。これは動詞としての「違う」の形を残しつつ形容詞的な活用をしているとみることができます。しかしこの形も、大辞林は採用しませんでした。
 

「間違くて申し訳ありません」!?

 さて、これらの使い方をしている人は、正しくは「違って」「違った」「違わない」であることを分かった上でわざと外しているのでしょうか。そういう人ももちろんいるでしょうが、そうでない人も多いようです。

 というのも、私が毎日新聞入社試験の作文の採点に携わったとき、「違うかった」と書いてきた人がいたからです。仮にも新聞社を志望する人ですから、ふざけて書いたとは思えません。しかもその後、大分県の年配の読者から普通に「違うかった」を使っているという情報がありました。そのことは拙著「失礼な日本語」でも触れましたが、若者言葉と思っていたのが、実は方言という可能性も出てきました。

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 ただ、井上史雄さんの研究では、元は東北などの方言とされていたので、特殊な例なのか、それとも西にも広がった方言なのか、謎は深まるばかりです。

 これらの学術的研究はこちらに詳しくまとめられています。

 ところで、国語学者は一般的に言葉の正誤を言いたがりません。誤用や俗用とみられる語でも一定程度使われている実態があれば、言葉の変化としてなんとか体系づけようとします。でも、間違いは間違いだとはっきり言わないと、使う人にとっても不幸ではないでしょうか。

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 ある消費者に対するおわびの文章でこんなものがあります。「私どもの説明が間違くてご迷惑をかけて申し訳ありません」。単なる誤入力でなければ、「ちがくて」が正しい日本語と思い込んだ人が「間違くて」と堂々と書いてしまった実例でしょう。これでは相手によっては「ふざけんな」と怒りの火に油を注ぎかねません。

 では毎日新聞ではどうか。「違くて」は過去1件だけ、2013年の地域面で、高校生の発言として「違くても」が出ていました。きっとその通り話したのでしょうが、たとえ取材記者がそのまま原稿にしたとしても普通はデスクらのチェックで「違っても」に直すところ。これはチェックをくぐってしまった残念な例です。個人的には「若者言葉としては間違いではない」とか「そう言ってるんだろ」とか妥協せず厳しく指摘しなければならないと思いました。

【岩佐義樹】

 

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