「この春は洒落見え&こなれ感でアガル!」。こんな言葉が飛び交う女性向けファッション誌の“校閲ガール”から新聞の校閲記者に転身しました。大きく違う言葉遣いやスピード感に戸惑いますが、限られた時間の中で最善を尽くすという点は変わりません。

 

プロフィル
渡辺美央(わたなべ・みお) 私立大学職員、出版社校閲部を経て、2019年入社。大学では演劇を専攻。サークルでも役者として舞台に立つ。趣味は観劇、映画鑑賞と動物園巡り。生き物全般、特に両生類・爬虫(はちゅう)類が好きで、飼っているのはベルツノガエル、飼ってみたいのはフトアゴヒゲトカゲとグリーンイグアナ。

全く別の世界に飛び込んで

「この春は洒落見え&こなれ感でアガル!」

9カ月前まで、私はこのようなことばが飛び交う女性向けファッション誌の校閲を主な仕事としていました。昨年6月に毎日新聞社に入社し、今は大阪本社で「校閲記者」として一人前になるために、試行錯誤、四苦八苦、七転八倒しているところです。

同じ「校閲」という仕事であるにもかかわらず、新聞の校閲はファッション誌の校閲と異なる点が多く、「全く別の世界に飛び込んでしまった!」と初めは戸惑いました。最近になって、だんだんと自分のペースで仕事ができるようになってきた気がします。

年度の終わりを迎えるにあたって、9カ月間働いてみて感じた前職との違い、そして共通点をまとめてみたいと思います。

かなり違う言葉遣い

ファッション誌は、想定される購読層の範囲がせまいため、使われることばも、その世代の流行が反映されることが多いです。10代~20代の女性向けなら「映(ば)え」「ガチで」、40代以上向けなら「大人の○○」「マイナス○歳肌」「エイジングケア」などのことばがよく出てきます。辞書に載っていないことばや造語が多く出てくるので、校閲する際も「その雑誌の読者に通じるかどうか」判断に頭を悩ますことがありました。

一方、新聞は読者層が幅広いので、より平易で誰にでもわかりやすいことばにする必要があります。さらに、政治、経済、スポーツ、文化と幅広い記事を読むので、どんな球も打ち返せるように日々知識を蓄えることが求められます。

これまでの勉強不足がたたり、急に目の前に現れる「公判」「カド番」「日経平均株価」といったなじみのないことばの数々。

特に逆上がりができないほどの運動音痴ということもあり、スポーツにあまり興味を持っていなかった私は、野球もサッカーもかろうじてルールを知っている程度で、運動面の記事を読むのに苦労しました。日々の仕事の中で選手の名前や用語を覚えたり、試合のテレビ中継を見たりすることで、少しずつ苦手意識をなくしていきました。

焦ると簡単な誤字も見落とす

校了までのスピード感も驚いたことの一つです。

新聞は降版時間(印刷に回す締め切り)がきっちり決まっているので、ゆっくり読んでいては間に合わないことがあります。特にスポーツの結果や夜遅くに起きた事件などは、降版時間ギリギリに原稿が出稿されることもあり、そんな中で、速く、かつ丁寧に原稿を読む必要があります。

「速く、かつ丁寧に」

言うのは簡単ですが、実践するのはとても難しいものです。

特に降版時間が迫り周りもバタバタとし始めると、焦って簡単な誤字も見落としてしまいがちです。

「貸金業」が1カ所だけ「賃金業」になっていたことに気づかず、再校してもらったデスクに指摘されて慌てて直したこともありました。

最近は、慌ただしくなってきて気がせいているのを自覚したら、丹田(おへその下)を意識して深呼吸し、気持ちを落ち着けて読むようにしています。

前職で担当していた月刊誌は、1カ月の中で校了日に向けて多忙な時期と余裕のある日の波があったのですが、今はそれが1日にぎゅっと凝縮された感じです。

紙の上にも四季は来る

それでも、限られた時間の中で最善を尽くし、一文字一文字を丁寧に読んでいくという点は変わりません。これは校閲ならば、どの媒体でも同じだと思います。

かけようと思えばいくらでも時間をかけて読める(読みたい)のですが、仕事である以上どこかで区切りをつけなくてはならないのが、つらいところです。

意外な共通点としては、原稿の中で季節の移り変わりを感じられるという点でしょうか。

ファッション誌ではモデルさんが水着を着ていれば「ああ、夏が来るんだな」、新聞でも「イルミネーションが始まった」という記事を読んで「もう今年も終わりか」としみじみ思います。外に出ることの少ない仕事ですが、紙の上にも四季は来るのです。

【渡辺美央】

 

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