「ばねにする」をポジティブな要素に使ってよいか。立ち入りを禁じるために張るテープやロープを「規制線」と呼んでよいか。肉の場合は「軟らかい」の用字でよいか。マスコミ各社の用語担当者の判断をまとめました。

 

仕事中にしばしば出合う、本来とは違う意味合いや、辞書ではあまり見つからない言葉遣い。そんな“気になる表現”にどう対応するか、マスコミ各社の用語担当者が参加する日本新聞協会用語懇談会に報告された2019年秋のアンケート(関西地区新聞用語懇談会で毎日新聞大阪本社が幹事社として主導)からまとめた5回目です。

これらの扱いは用語基準としては決められていないものも多く、回答は各社の公式見解というわけではありませんが、校閲記者ら各社の用語担当がどのように考えるか、その傾向はうかがえます。

ぜひ、一緒に考えてみてください。

 回答したのは17社(全国紙・通信社6、スポーツ紙1、テレビ局5、地方紙5)の用語担当者。原則として話し言葉や寄稿文、引用などの場合は除く。

 

「家族への感謝をばねに」

例文
家族への感謝をばねに、大会連覇を目指す。
 ポジティブな要素に「ばねにする」を使ってよいか
直す 9社
場合による 2社
直さない 5社

 

「直す」が多く、「直さない」としながらも記述欄に「実際に出てきたら迷う」と書いた社もあり、全く問題なしとはできない表現と言える。ただ、現代国語例解辞典(第五版)が「逆境、失敗など、好ましくない事柄を行動の原動力とすること」としているものの、このようにネガティブな場面に限る語釈の辞書は少ない。用例にも「住民運動がばねとなって基地が撤去された」といったものが複数載る。

毎日新聞の過去の記事で「勝利をばね」「優勝をばね」を調べたところ、すべて90年代以前だった。近年はより限定的になってきている傾向があるのかもしれず、今後も使用例を注視していきたい。

 

立ち入り禁じる「規制線」

例文
事件から10日たった現場では、規制線が撤去された。
 警戒態勢を敷くことが「規制線を張る」であり、立ち入りを禁じるために張るテープやロープを「規制線」と呼ぶのは本来的でないとの議論がある
直す 3社
場合による 2社
直さない 12社

 

事件現場の立ち入り禁止テープが「規制線」と呼ばれる例はよく耳にする。「事件現場の関係者もテープを『規制線』と呼んでいる」との意見もあり、「直さない」が多数という結果になった。「直す」社の記述にも「定着しているのでもはや無駄な抵抗」と自虐的な記述があるなど、各社とも定着の流れにはあらがえない状況のようだ。

ただ、毎日の入社間もない部員複数から「規制線は物理的なものではない」「違和感がある」との声が上がっており、新聞社の文章にどっぷりつかっていない人間からこうした印象が聞かれるのであれば、認めるにしてももろ手を挙げてというわけにはいかないところがある。

記事で「規制線を張る」とあっても、テープを張った意味でも警戒態勢を敷いた意味でもどちらでも通る文章は多い。このあたりも定着を加速させる一因となっているかもしれない。

 

「軟らかい肉」

例文
「旭高砂牛」は赤身が多く、軟らかさと強いうまみが特長という。
 食べ物に対して「軟」はおいしくなさそうに感じるという声がある
直す 6社
場合による 3社
直さない 8社

 

普段校閲記者は字義や語義、由来、世間での定着度合いなどを材料に言葉を議論している。このアンケートは毎日の校閲部員から質問を募ったが、「おいしくなさそう」という理由が新鮮に感じられ、採用した。結果は割れ、「直さない」と回答した社にも「社の規定によるが進んで使いたくない」「おいしくなさそうに見えて嫌う人もいるので場合によっては平仮名で」などの記述があり、「軟らかい=おいしくなさそう」という意見は少なくないことが浮かんだ。

調理前の素材は「柔らかい」、調理した結果そうなった場合は「軟らかい」と使い分けている社があったが、「牛肉がやわらかくておいしい」など、素材のためか調理のためかはっきりしない場面が多く、食べ物は平仮名の「やわらかい」でよいと取り決めているという。

飲食店やレシピの紹介ではおいしそうに感じられるかも大事なポイント。この調査結果を受けて当サイトでもインターネットアンケートを実施したところ、「柔らかい」が圧倒的な支持を受けた。

 

 

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