13年ぶりに改訂された三省堂の「大辞林」第4版で、個人的に気になっている語を調べてみました。「まさかないだろうな」と思った語があったり、新しい意味にびっくりする語があったり。編集部に問い合わせたことのある語も、明示されていました。


三省堂の「大辞林」が13年ぶりに改訂され第4版が今月発刊されました。早速いくつかの語を引いてみました。

驚きだった「エモい」

ちょっとした驚きだったのは「エモい」が載ったことです。(画像は全て「辞書 by 物書堂」版から)

三省堂辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2016」第2位に選ばれたことは知っていましたが、辞書に載るのは、新語を積極的に採用する「三省堂国語辞典」が先だと思っていました。今年1月に出た「三省堂現代新国語辞典」にもありません。おそらく、全ての書籍版国語辞典の中で「エモい」を入れた最初の辞書ということになると思います。

「今年の新語2016」の選評にはこうあります。

 

日本語では、「四角な→四角い」「黄色の→黄色い」というように、「特別ではなく普通の日本語の一員になった」と感じられる場合、形容詞化が起こることがあります。ただ、外来語が形容詞化することは大変少なく、1970年代末の「ナウい」、現在の「エロい」「グロい」ぐらいしか例がありません。「エモい」は稀な例と言えます。 「エモい」は、感動・寂しさ・懐かしさなど、漠然としたいろいろな感情表現に使われます。

 

ちなみに「エロい」も大辞林第4版で採録されています。

この言葉は昨年1月発刊の「広辞苑」第7版で採用されていましたが、同辞書では「エモい」は選ばれていませんでした。

おそらく大辞林編集部では「エモい」「エロい」は単なる一過性の流行語ではないと判断したのでしょう。

 

さて、辞書が改訂されるとどういう新語が入ったかが話題になります。出版社側もそれを宣伝の一環とします。事実、三省堂の特設サイトでは「インスタ映え」「インフルエンサー」など、いかにも今多用されている新語が多く紹介されています。ただ当方はそういう広報資料に頼らず、あくまでも個人的に気になっている語がいかに盛り込まれたか、3版との比較で調べてみました。「エモい」もサイトを見る前に「まさか載せてはいないだろうな」と思いながら引いた語です。

令和ならでは「上皇后」

さて、探し出せた新語です。

「令和」の辞書をうたうだけあって、令和ならではの言葉「上皇后」をしっかり載せています。

「上皇」自体は当然、これまでの版にはありましたが、「上皇后」はありませんでした。明確には書かれていませんが、「上皇后」という呼称がそれまでなかったことをうかがわせる記述です。

「上振れ」「下振れ」は「…する」

「上振れ」「下振れ」も新規採用語です。

経済関係記事などで頻出します。「上振れる」「下振れる」という動詞も散見されますが、これは大辞林4版では採られていません。「上振れする」「下振れする」にすべきでしょう。

しばしば見かけた「ユーフォニアム」

「ユーフォニアム」(ユーフォニウム)も登場しました。

京都アニメーション放火事件の関連で「響け!ユーフォニアム」という作品名が新聞でもしばしば取り上げられました。ユーフォニアムは金管楽器の一つなのですが、あまり知られていなかったためか、これまで大辞林に採録されていませんでした。発売時期から考えると事件の影響ではないことは明らかで、むしろこれまで入っていなかったのが吹奏楽関係者には不思議だったかもしれません。

 

政治家も使う「ちゃぶ台返し」

「ちゃぶ台返し」も収録されました。

政治家もよく使う慣用表現です。「巨人の星」で星一徹がちゃぶ台をひっくり返すシーンが浮かびます。が、それが発祥かどうかは書かれていません。

70代でも「妙齢」と言っていい?

次は言葉自体は従来の版でも載っていたけれど、新しい意味が加わったものです。

まず「妙齢」。②の意味が新たに加わりました。

ええっ、70代でも妙齢といっていいのか?といささかびっくりしました。もちろん、間違いでも特殊でもなく、「若い女性」から変質した使い方が相当程度の広がりあると判断されてこういう用例になったのでしょうが、これでは「妙齢」という言葉自体、誤解を招きかねないので避けるという選択がますます強まりそうです。

 

広がった「盛る」の意味

「盛る」では⑤の用法が新しく加わりました。

それより新聞社として気になるのは、「事業費38億円盛る」などの使い方です。「盛り込む」の略として字数宣言が厳しい見出しでは以前から頻出するのですが、新しい大辞林にもいま一つ適合していません。④のバリエーションといえなくもないのですが……。

しっくりくる「冷水を浴びせる」

それから、これも新聞では多用されているのに3版まで比喩表現として掲げられていなかった「冷水を浴びせる」が入りました。

これまで「冷や水を浴びせる」はあったのに、音読みの「冷水を浴びせる」は載っていなかったのです。実は私は以前、三省堂に「冷水を浴びせる」より「冷や水を浴びせる」の方が適切と判断しているということかと問い合わせたことがあります。そうではないと返事がありました。両方使えるということです。

今回入ったのは、たぶん私の問い合わせに対応してくれたわけではなく全体的な見直しの結果でしょうが、どちらも使えることが明示されたのはよかったと思います。しかも「冷や水を浴びせる」の方は「『冷水(れいすい)を浴びせる』に同じ」というそっけない記述に。個人的には「冷水を浴びせる」の方がしっくりくると思っていたので、我が意を得たりと思いました。

昔からあったかのような「気付き」

発刊されたばかりでまだあまり新しい部分を探せていませんが、とりあえず以上の気付きがありました。そういえば、この「気付き」という名詞の用法は3版にありませんでしたが、4版ではどうなったでしょうか。

「気付く」とは別に立項し、「近年の用法」などという注釈も付けずに、昔からあったかのように澄ました顔で並んでいます。こういう新顔の言葉の裏に、編集者たちの探究心や採否を巡る討論があったのだろうと想像を巡らせました。

【岩佐義樹】

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