話題の「三省堂国語辞典 広島東洋カープ仕様」。「ミスター」の項で虎党を悔しがらせた「阪神タイガース仕様」より進化し、11人のレジェンドが用例に登場します。筋金入りのファンはどんな言葉を引いてみたのでしょうか。

 

 あれは1年前のことでした。阪神ファンのH先輩が手に入れたばかりの「三省堂国語辞典 阪神タイガース仕様」に頰ずりしながら、こんな記事を書いたのは。

 

 そして今年3月、満を持して登場したのが「三省堂国語辞典 広島東洋カープ仕様」。

 熱き虎党のH先輩に比べ、「赤い帽子が可愛いから」という理由で小学生の頃にカープファンを名乗っていた薄っぺらな私。こんな私がしゃしゃり出る局面ではないよ……と恐縮しつつ、広島県人のくせに鯉党に属さない校閲部部長に代わって打席に立たせていただきます。

 いざ、プレーボール!

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「ミスター」はどうなった?

 まず気になったのが、虎党先輩が「落胆した」と書いていた「ミスター」の項。三国「阪神仕様」ではこうなっていました。

 

 「よりによって『ミスター』の用例が宿敵・ジャイアンツになっているなんて。下手をすると過激なファンによって辞書が道頓堀川に投げ込まれてしまうかもしれません」とぎりぎりしていた先輩。

 さて、「広島仕様」をめくってみると……

 

 さすが! 同じ失敗は繰り返しません。宿敵を用例から排除し、代わりにカープレジェンドを登場させました。

 そう、この「広島仕様」には、用例に11人のカープ選手が登場します。もちろん通常版の辞書にはないオリジナル用例で、赤文字で目立たせてあります。「ミスター」に登場した山本浩二選手のように、「レジェンドと誰もが認める選手名」を掲載したとのこと。ただし、人名そのものを引いても出てくるわけではなく、あくまで「用例」にそっと紛れ込んでいます。

 つまり、ある選手から連想される語を引いてみたら、赤文字の用例に出合える、というわけです。さあ皆さんは全員見つけられるでしょうか?

 ちなみに私は、どう頑張っても自力では4人しか発見できませんでした。「天才」を引いて、もしやあの選手がいないかと探したり、「男気」を引いて、あの選手に出会えずに落胆したり。オリジナル用例が三つしかなかったと不満げだった虎党先輩、すみません。第2弾「広島仕様」、かなりレベルが上がっています。

ファンが引いてみる言葉は?

 広島ファン歴35年の整理記者Hさんに辞書を渡してみました。まずパラパラとめくったのは「ミスター」の項。その次に引いたのはなんと、「犬(けん)」! 広島市民球場で、ボールを運ぶベースボール犬として活躍した「ミッキーくん」が用例にいないのか気になったそうです。

初代の広島市民球場 by Taisho

 

 そして大御所、カープファン歴60年余(!)という客員編集委員のTさん。「こんな辞書が出たのを知っていますか?」と見せたところ、目を丸くして受け取ってくださいました。大御所がまず引いたのは「俊足」。現役通算477盗塁の記録を持つ高橋慶彦選手が用例にいることを期待したそうです。残念ながら、高橋選手が登場しているのは別の項。ネタバレになるのでここでは書きません。

 「いつ発売されたの? 全然知らなかった!」と興奮気味の大御所に、「阪神仕様」でブーイングとやじが飛んだ「ミスター」の用例が改良されている点などを説明すると、「阪神ファンは度量が小さいからねえ。広島ファンだったら笑って済ませますよ」とにやり。最後に「この辞書、買いますよ」とおっしゃっていました。

辞書の面白さを再認識

 実は、三国「広島仕様」を引いていて、思い出したことがあります。11人のレジェンドを見つけたくて、先輩(女性)と後輩(女性)の手を借りて一ページ一ページめくっていた時のこと――。

 


 私「見て、この『こむそう(虚無僧)』の挿絵笑える!」
 後輩「この女の人のイラストが付いてる『サラファン』ってなんですか?」
 先輩「『じぞう(地蔵)』の挿絵も見てよ」
 私「『死馬にむちうつ』ってすごい言葉ですね」
 後輩「『しょう(笙)』の挿絵も笑えます!」
 私「『しょうちゃんぼう(正ちゃん帽)』ってなんですか?」
 先輩「正ちゃん帽知らないの?」
 後輩「知りませんよ、誰ですかその人」
 先輩「正チャン知らないの?」
 私「知りませんよ、世代の違いですよ」
 先輩「えっ信じられない!」
 後輩「やっぱり先輩って博識だったんですねえ」
 私「いやただの世代の問題・・・」
 先輩「そうなのよ、物知りなの」
 私「『沈香(じんこう)も焚かず屁もひらず』ってすごい言葉ですね」
 後輩「確かに! 屁って・・・」
 先輩「沈香だけでいいよね、屁って・・・」

 この調子で、3人で1時間以上、辞書をのぞき込んで盛り上がりました。

 そうでした、辞書って、最高の遊び道具でしたよね! 幼い頃。実家の縁側。安楽椅子に腰掛けた祖母の隣で、床に置いた辞書をぺらぺらめくっていました。挿絵を指さしては、「これ何?」「どういう意味?」と問う私に、「それはね・・・」と優しく教えてくれた祖母。言葉を覚えると、試しに親に使ってみては、「ちょっと違うなあ」と訂正されていた日々。電子辞書を使うようになって忘れていた、当てどなく辞書をめくる感覚、めくった先にワンダーワールドが待っている感覚を、よみがえらせてくれた「三省堂国語辞典 広島東洋カープ仕様」でした。(帽子を取って)「ありがとうございました!」

【湯浅悠紀】

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