「校閲が好きって伝わってきて、私もしたいことを仕事にしたいと思いました」。大学で話をした際もらった言葉ですが、実は校閲が「したい仕事」になるまでは曲折がありました。就職や仕事について悩む人へのエール代わりに、自分の就活について書きました。


 昨年末から毎日新聞では校閲記者を募集しています(1月末に応募締め切り)。これをお読みの方の中にも就職活動中という人がいるかもしれません。

 何度か大学で校閲について講義をしているのですが、自分の就活の話をすると「参考になった」という声をもらいます。校閲という仕事に興味を持っている人だけでなく、やりがいを持って働ける仕事がしたいと願う人の参考になればと、詳しく書いてみることにしました。

 大学4年の夏、まったくわたしには何もありませんでした。就職活動の走り出しは遅く、勉強もサークル活動もアルバイトも中途半端。スポーツが好きだからマスコミのスポーツ記者になって取材がしたい、ただそれだけしかない就職活動がうまくいくはずもなく、完敗。他職種の内定は得たものの、これでいいんだろうかと鬱々とする日々でした。

 夏ですから、高校野球をテレビで放送しています。スポーツ記者になりたいと思うぐらいですから野球は好きでしたが、その年の大会は例年になく引き込まれ、気がつけば甲子園のスタンドに毎日通っていました。自分のふがいなさに比べ、彼らがあまりにもまぶしかったからでしょうか。自分に問いかけました。わたしはやったか? やり切ったか? この選手たちに比べて、恥ずかしくないか?

by 百楽兎

 勢いのままに内定辞退の電話をし、夜行バスに飛び乗りました。「就職活動」のために。

 その年は高知で国体があり、高校野球開催の球場でスコアをつけ、望遠レンズを取り付けたカメラで写真を撮りました。見に来ていた高校野球ファンと話し、ツテを作って高校野球雑誌や新聞記者の人と知り合いになり、夜は飲みにつれて行ってもらいました。見知らぬ人に声をかけるなど、従来の自分の性格からはありえませんでしたが、この頃は自分に「やり切れ」と言い聞かせていました。

 大学卒業を前にして、スポーツ新聞社にアルバイトをさせてもらえないか電話をかけました。求人があるのかも知らずにかけましたが、「何か仕事があれば連絡ください」と伝えると、しばらくして電話がかかってきました。そこで出合ったのが、校閲という仕事です。

 アルバイトの間は業務をこなすことはもちろんですが、それ以外では「『縁』をつくる」「自分のしたい仕事について知る」ことに努めていました。深夜帰宅のタクシーの相乗りは、取材記者と話せる最大のチャンス。役員クラスの人と話す機会があれば、スポーツ関係の仕事のツテはないかとずうずうしくも聞いていました。結果には結びつきませんでしたが、役員の方の一人が実際に、プロ野球の球団幹部に掛け合ってくれたこともありました。

 また、スポーツ紙の仕事は日数が限られており、その他の日はスポーツやイベントの現場で、派遣のアルバイトをしていました。さまざまな仕事を体験し、「その日の作業にいかに社会的なやりがいを見つけて楽しめるか」を自分に課して、どんな仕事が向いているのか考えていました。

 思い出深いエピソードがあります。面接を受けた帰りに雨が降り出し、傘をさしました。駅へ向かう途中に雨宿りをしている人がいて、わたしは「駅まで行かれるのでしたら、入っていかれますか?」と声を掛けました。

 就活のためでなくても、勇気が出せる自分になっていた。そして、その人はわたしのリクルートスーツ姿を見て、就職に困ったら連絡してこいと鋼管メーカーの名刺をくれました。

 マスコミ志望は変わらなかったので実際に連絡することはありませんでしたが、ずっと名刺はお守りのように持ち歩いていました。

 校閲志望に転換したのは就活3年目です。読書は好きだったので言葉に関する仕事は面白く、誤字を直したりデータの誤りを指摘したりすることでスポーツに関わることもできる。スクープを帳消しにしかねないミスを見つけることができたときには、アルバイトでも達成感がありました。あの日の甲子園の記事だって、たとえばエースの名前に誤字があったなら、きっと台無しだったはずですから。

 アルバイトで仕事経験があるとはいえ、大学で文学や言語など校閲につながりそうなことをやっていたわけでもなく、武器は「校閲が楽しい」ただそれだけでした。面接で仕事への情熱(執着?)、記者とのやりとりから感じることなど、なんとか自分だから話せることを考え、3度目の受験にしてようやく毎日新聞に入社することができました。

 当然、何年も就活を続けていることに不安はありました。努力すればなんとかなるわけではなく、いつまでもなんとかならないかもしれない。それだけに心の底からうれしく、働けることの価値をかみしめることができました。
 
 わたしが講義をした際に学生に提出してもらったリポートには「就活は適当でいいと思っていたけど、校閲が好きというのが伝わってきて、自分もしたいことを仕事にしたいと思った」といううれしい言葉がありました。

 わたしは「スポーツ記者」という「したいこと」を追いかけて、「校閲記者」という好きになれる仕事に出合ったので、「したいことを仕事に」できたのは偶然ではあります。でも、「したいことを仕事に」しようと走ったからこそ出合えた仕事。学生のみなさんも「したいこと」をさがしてたくさんの仕事と出合ってください。

by PIXTA

 リクルートスーツ姿を街で見かけるたびに、あの日の自分を思い出します。就活は自分を否定されるような日々が続いてつらいですが、あなたにかかわる人は、通りすがりのわたしのような者でさえ、みんなあなたを応援しています。

 わたしもみなさんに負けないように仕事と真剣に向き合っていきたいと思います。だってあんなに望んだ、「わたしのしたい仕事」ですから。

【水上由布】

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