新聞は、誤字を避けるだけでなく、誤解を与えないような表現が求められます。情報だけではなく、ことばの使い方に関する品質管理も、新聞校閲は担っています。そんな実例をいくつか挙げてみました。

前回に続き、「校閲記者からみた記事の書き方」と題した日本新聞労働組合連合(新聞労連)の若手記者研修会でお話しした内容をまとめた2回目です。

新聞校閲の説明の次は、実際の「誤り」の事例紹介をしました。その中からいくつかをご紹介します。

まずは「校正」にあたる、新聞校閲の基本「誤字・脱字直し」です。今では手書きで原稿を書くことは少なくなっているので、「誤字・脱字」は主にパソコンでの変換ミスということになります。

「心配停止」「泥試合」

年に数回見る定番の間違いで、見逃してしまったら即アウトなのが「心肺停止」が「心配停止」になっていたというものです。先の西日本豪雨の原稿でも2回見ました。

指摘されればすぐに気づけるのですが、1文字の誤字だと読み飛ばしてしまいがちです。特に「心肺停止」がよく出てくるのは西日本豪雨のような災害や、大きな事件・事故などのケースで、このような時は原稿が来るのが締め切り直前と非常に忙しい場合が多いため、お恥ずかしいことについつい見逃してしまうのです。

とはいえ大災害や深刻な事故を伝える記事で「心配停止」などという文字を紛れ込ませるようなことは、何としても防がねばなりません

まとめて変換しよう

対策の一つとしては「しんぱいていし」とまとめて打つことです。「しんぱい」「ていし」と分けて変換してしまうから、「しんぱい=心配」が出てきてしまうのです。

同じことは頻出の「泥仕合」にも言えます。もし仮に「泥試合」と間違えて覚えてしまっていても、「どろじあい」と一括で変換すれば「泥仕合」が正しく出てくるはずです。

文章をパソコンで書く時は、ことばのまとまりをできるだけ一括で変換するようにすれば誤入力が減るでしょう。

「雨模様」

また、新聞は幅広い読者の方が日々目にするため、誤解を与えないような表現が求められます。話し言葉や日常生活ではついつい使ってしまうものでも、本来の意味とは違う使われ方であったり、「誤用」とされる表現であったりすれば直しを入れています。情報だけではなく、ことばの使い方に関しても「新聞に載っているのだから」と思っていただけるように、「正しい日本語」を守る品質管理も、新聞校閲は担っています。

「誤用」とされる使われ方が多い筆頭として挙げられるのが「雨模様」です。このことばは「雨催い」が変化したもので、「雨を催しそうな天気=今にも雨が降り出しそうなさま」を表したものです。つまりまだ雨は降っていないはずなのですが、小雨が降っている場合や、降ったりやんだりしている場合など、実際に雨が降っている時にもよく使われてしまっています。

「朝から雨模様で」など原稿を読んだだけでは雨が降っていたのかどうか判断できないことも多いので、出稿部に問い合わせて、雨が降っていたようであれば直すようにしています。

本来ではない使い方が多数派だが

ただ、三省堂国語辞典第7版で「雨模様」を引くと、「雨の降りそうなようす」に続けて「小雨が降ったりやんだりする天候」という意味も載せています。さらに文化庁の「国語に関する世論調査」(2010年度)によると、「外は雨模様だ」という文に対して、「雨が降りそうな様子」だと解釈する人は43.3%、「小雨が降ったりやんだりしている様子」だと思う人は47.5%となっており、「誤用」とされる使い方が、本来の使い方よりも浸透してしまっていることが分かります。それゆえ実際に雨が降っている時に「雨模様」を使うのは誤りだと簡単に断言することはできなくなってきています。

「雨模様」では降っている、降っていない、それぞれ違う受け取り方をする人がいるので、「今にも雨が降り出しそうな空模様」「あいにくの雨」というように言い換えてしまうというのが、誤解を防ぐ一つのやり方ではあります。正しい使われ方をしていても紙面から「雨模様」が減るのだとしたら悲しいですが……。

「明るみになる」

「明るみになる」も頻出の「誤用」表現です。明るみの「み」は「深み」「高み」などと同様、形容詞の後について「場所」を表す接尾詞です。そのため、「真実が明るみになる」としてしまっては「真実が明るい場所になる」というよく分からない表現になってしまいます。

真実が明るい場所に「出て」白日の下にさらされる=公になるという意味なので、「明るみに出る」「明らかになる」が正しい使い方です。両者が混同してしまったのが「明るみになる」というわけです。

「帯同」

スポーツ記事で気をつけたいのが「帯同」と「同行」の違いです。辞書で「帯同」を引くと、同行と同じだとしていることもありますが、この二つは主体が異なり、前者は「連れて行く」こと、後者は「付いていく」ことを表します。

「サッカー日本代表のバックアップメンバーとして帯同していた井手口」といった文の場合、井手口は「付いていく」側なので「同行していた」という表現が適切です。「連れて行く」ニュアンスを出したいのであれば、「サッカー日本代表がバックアップメンバーとして帯同していた」とすればよいでしょう。

「前倒し」

校閲記者を日々悩ませるのが、言わんとしていることは分かるけれども言葉遣いがふさわしくないというケースです。

例えば「『RSウイルス感染症』の流行が(従来は秋から冬だったが)前倒しされ、夏から患者が増え始めている」といった文章ですが、このままでもおそらく文意は読者に伝わるでしょう。

しかし、「前倒し」は「予定の時期を早める」という意味で、意図をもって繰り上げることを指すことばです。ゆえに「流行を(操作して)早める」というおかしな文章になってしまっているのです。ここでは「流行が早まり」と直せば、自然な流れにすることができます。

【佐原慶】

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