広辞苑の第7版が出る1カ月ほど前に、下のような広告が紙面に載りました。

新収載語を連ねて文章っぽく仕立てたもので、なるほど、前の第6版が出てから10年、こんな言葉が現れては浸透してきたのかと思わされます。

実際のところ、これらの言葉はいつごろから使われるようになったものか、新聞記事のデータベースではさかのぼって確かめることが可能です。

例えば「ラミダス猿人」。毎日新聞では1994年9月22日の朝刊が初出です。日本の発掘隊が関係したこともあって、1面で大々的に報じられていました。

記事では「アウストラロピテクス・ラミダス」という学名が載っていますが、広辞苑には「アルディピテクス」とあります。これは発見の翌年に改めて新しい学名が付けられたためです。

もっと身近なところで「スマホ」。現在主流のタッチパネル型スマホの代表格、iPhoneが日本で発売されたのが2008年ですが、毎日新聞に初めて「スマホ」が現れたのは2011年。「スマホ女子」が急増、という話題ものの記事でした。

「スマートフォン」の毎日新聞の初出は2006年。略称で呼べるほどに社会に浸透した、と考えられるようになるまで4年あまりかかっています。

ちなみに2017年の1年間に「スマホ」が登場した記事の数は1469件。紙面に出てこない日はないと言ってよさそうです。

ほかのものもかいつまんで見ていくと、「キーマカレー」は1997年、「ビッグマウス」は固有名詞を除くと1994年、「がっつり」も固有名詞以外では2006年、「群淘汰」は1997年にただ1度、「ヘイトスピーチ」は2012年、「殿堂入り」は野球やゴルフなど特定の殿堂を指さない用法としては1992年――が初出でした。

実際に世間で使われ始めたのはもっと前の場合もありますが、新聞に載る程度に世間に浸透したのはその頃、という目安になります。

ところで、上掲の広告に挙げられている言葉の大半が名詞です。変化が早く、現れては消えてゆくことが多いのは物の名前であると言えますが、その中で「惚(ほ)れ直す」だけが動詞。

でもこれは最近の言葉なのだろうか、という疑問がわきます。第6版以前の広辞苑にも当然ながら「惚れる」と「直す」は載っているのに。

ほかの辞書も見てみますが、「惚れ直す」では載っていません。唯一見かけたのが三省堂国語辞典。それも最新版の第7版(2014年)のみで、それ以前の版にはありませんでした。

語釈は「〔もともと好きだった人やものについて〕改めてその良さを感じてほれこむ」。「改めてほれる」ではなく「ほれこむ」としてあるあたりに、一層好きになる、という意味が込めてあり、項目を立てる価値があると考えたのでしょう。

広辞苑の方は「新たな魅力を見出し」というあたりに「ほれる」と「直す」を合わせたにとどまらない意味を認めているようです。

毎日新聞での使用例(動詞の活用形を考慮して「ほれ直」と「惚れ直」で検索)を見ると初出は1991年ですが、この言葉に関しては、それが最初の例とも言い切れないでしょう。

とはいえ、90年代よりは2000年以降の方が使用頻度が高く、一語として収載されたのもそうした実態に合わせたものと考えられます。

【大竹史也】

 

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