「JR、阪急、阪神の3路線が乗り入れる梅田駅周辺が『キタ』。対してグリコの看板がある戒橋などで有名な難波周辺が『ミナミ』。さらにミナミの南の浪花区には通天閣、阿部野区にはアベノハルカスが……」。大阪市内だけでも要注意の地名がいっぱいです。

 

冒頭の文章、大阪人の皆さんはツッコミどころが多すぎて困ってますか? 非大阪人の皆さん、どこがおかしいのか全く分からなくてポカンとしてませんか?

梅田駅があるのは

関西に住むのは初めての筆者ですが、コロナ禍前には何度も阪神甲子園球場に足を運んでいました。JR大阪駅(そう、JRには梅田駅はありません)で乗り換え、阪神電車の梅田駅へ……あれ、「大阪梅田」?

阪神と阪急は2019年、それぞれの路線の梅田駅を「大阪梅田」と改称していました。当時の毎日新聞記事によると、「梅田だと大阪の中心にある駅だと分かりにくい」という外国人観光客の声を受けて変更に踏み切ったのだそうです。

ならばもう梅田駅は存在しないのか……と思いきや、大阪メトロ御堂筋線は「梅田」でした。勇み足でこちらも「大阪梅田」としてしまってはいけません。

ところで阪急の大阪梅田駅から毎日新聞大阪本社まで歩こうとすると、(ルートにもよりますが)大阪梅田(阪急)→大阪(JR)→梅田(大阪メトロ)→大阪梅田(阪神)と通り過ぎることになります。道に迷って元の場所に戻ってしまったのではないかと混乱しそう。

駅に限らず、梅田の地下街は「梅田ダンジョン」と呼ばれるほど複雑。さらに現在も工事が行われ、その姿を変え続けています。踏破を試みるのはもう少し経験を積んでからにしましょう。

4種類の「なんば」

梅田駅から御堂筋線で南に向かいなんば駅へ。大阪メトロは「なんば」ですが、この駅名もくせもの。各鉄道会社によって駅名が微妙に違います。

近鉄と阪神は「大阪難波」、JRは「JR難波」、南海は「なんば」なのですね。原稿に「JR関西線JR難波駅」と書かれていても、2度目の「JR」を削ってしまってはいけません。

よし今後は気をつけてチェックするぞと意気込んだところに掲載された紙面がこちら。

2022年6月の毎日新聞より

 

南海は「なんば」やろ? この記事を書いた記者もひょっとして関西ビギナーか?

……と思いましたが、南海の駅はどうやら漢字の「難波」が正式なようで、南海電鉄のプレスリリースでは「難波駅」と表記しています。切符もこうなっていました。

つまり新聞記事では漢字の「難波」でOK。南海難波駅の駅員さんに「結局どっちなんですか?」と聞いてみましたが、「うーん、両方の表記がありますね。どちらでもよいです」とのことでした。

2018年8月の毎日新聞より

 

山手線は「恵比寿」だが

梅田周辺が「キタ」と呼ばれるのに対して、この難波周辺は「ミナミ」と呼ばれる繁華街。道頓堀、グリコの看板は全国的に有名です。ではそのグリコの看板が見られる橋の名前をご存じでしょうか。

写真の右下にある通り、戎橋(×戒橋)です。「えびすばし」と読みます。

この「えびす」にもいろいろな表記があります。毎日新聞用語集の記述がこちら。

ここに挙げられているだけで6パターンの漢字表記があります。東京の山手線の駅は「恵比寿」ですね。商売の神・えびす様を祭る神社の表記はいろいろで、大阪市福島区にあるのは「野田恵美須神社」、浪速区にあるのは「今宮戎神社」。

野田恵美須神社

今宮戎神社

 

さらに、この今宮戎神社の住所は「浪速区恵美須西」。通天閣があるのは「浪速区恵美須東」。近くの大阪メトロの駅は「恵美須町」です。

東京の日本橋は「にほんばし」だが大阪の日本橋は「にっぽんばし」と読む、というところも見逃せない

 

「えびす」だけでなく、「なにわ」にも複数の漢字があります。大阪市の区名は「浪速」ですが、先ほど出てきた「難波」の表記で「なにわ」と読むこともあります。他に「浪花」「浪華」などもあり、演歌の名曲は「浪花節だよ人生は」。人気急上昇中のアイドルグループは「なにわ男子」と平仮名表記ですね。

大阪市の最難関「あべの」

通天閣から天王寺公園沿いに歩くと、日本一高いビル「あべのハルカス」が見えてきます。所在地は大阪市「阿倍野区阿倍野筋」。

あべのハルカス展望台からの眺め。左手前が天王寺公園

 

人名の「あべ」さんが出てくると、校閲は必ず一旦立ち止まって確認します。「安倍」「安部」「阿部」「阿倍」といった具合に非常に間違えやすい変換候補があるためです。この「あべの」も同様に気をつけなければなりません。このあべのハルカス直結の近鉄の駅名、ご存じでしょうか。

「大阪阿倍野橋」ではなく「大阪阿部野橋」。気を抜いていたら絶対に見落とす自信があります。よし、区の名前は「阿倍野」、駅の名前は「阿部野」。頭にたたき込んだからもう大丈夫。ちょっと寄り道しましょう。ハルカス内の「千成屋珈琲」。

大阪ではアイスコーヒーを「冷コー(レイコー)」と呼ぶ、というのは有名な話ですが、「最近はそう言う人は少なくなってきた」とも聞いていました。しかしこの千成屋ではメニューにしっかり「冷コー」と書かれておりちょっと感動。大阪人になったつもりで「冷コーひとつ!」と注文してみたい……という欲求もありましたが、この店が発祥だというミックスジュースを頂きました。

閑話休題。

あべのハルカスを出て、「あべの筋」を南へ。住所は「阿倍野筋」と漢字表記ですが、通りの名前は平仮名です。

 そこに現れる駅、二つ。

大阪メトロも阪堺電車も、「阿倍野」駅。近鉄の駅と表記が異なります。なんでや……。

気を取り直してあべの筋を進み、路地に入ると住宅街に神社が建っています。

安倍晴明神社。これも「あべの」の一つですね。晴明はここで生まれたとされるようです。

小さな神社ですが、若い参拝者が多く見られました。陰陽師人気は健在です。

ちなみに安倍晴明の家系はもともと「阿倍氏」と表記されていたそうです。頭痛がしてきました。

まとめると、「近鉄阿部野橋駅直結のあべのハルカス(阿倍野阿倍野筋)からあべの筋を南に歩き、大阪メトロ阿倍野駅と阪堺電車阿倍野駅を通り過ぎて安倍晴明神社に参った」ということになります。

 

覚えきれるか!

というわけで「アベノ」が出てくる度に、表記が正しいか確認した方がよいでしょう。

それにしてもこの「アベノ」の混在ぶり……そうか、これが本当の、アベノミックス!

レイコーならぬレイショー(冷笑)を頂きました。大阪は笑いのハードルが高い。

 

それでは冒頭の文章に戻りましょう。

JR、阪急、阪神の3路線が乗り入れる梅田駅周辺が「キタ」。対してグリコの看板がある戒橋などで有名な難波周辺が「ミナミ」。さらにミナミの南の浪花区には通天閣、阿部野区にはアベノハルカスが……。

もう、完璧に直せますよね。

JR大阪駅などがある梅田地区周辺が「キタ」。対してグリコの看板がある橋などで有名な難波周辺が「ミナミ」。さらにミナミの南の浪区には通天閣、阿野区にはあべのハルカスが……。

【林弦】

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